≪四節;ゾハルの主≫
〔それからは、何事も起こらず――― 無事、サ・ライに入国。
この大陸を縦断するかのような山脈を越え、彼女の目的としているゾハル山に着いたようです。
そして・・・その山の中腹にある、洞窟へと足を運ばせるキリエ・・・・。
その洞窟内部―――とは、奥に行くに従い、だんだんと狭まり、ついには、行き止まりになってしまっていたのです。
しかし、伝承の通りなら、ここには小山を思わせるかのような、巨大な竜が棲んでいるはずなのに・・・
と、すると、今まで行き止まりかと思われた、目の前の岩壁が動き・・・・そこからは、なんとも大きな眼が!!?
キリエのほうを向いていたのです・・・。
すると、キリエは―――〕
キ:(ス―――・・・) お久しぶりにございます・・・・お方様―――。
〔恭(うやうや)しく一礼した後・・・口から出た言葉・・・『お方様』――――。
そうすると、間もなくして、目の前の、目がついた壁はゆっくりと離れ・・・・キリエを、奥へと誘(いざな)いこんだのです。
そうなると――― 謎だったこの洞窟の全容が―――
なんと、この場所は、入り口から、ここまで、おおよそが想像もつかないような、広大なる空間を抱えていたのです。
そして―――そこには、伝承の通り、
熾緋なる鱗で覆われた―――
強大な竜が―――
いたのです・・・。(・・・と、なると、この竜が、彼女の主??)
すると、その竜・・・・徐(おもむ)ろに、キリエに顔を近付かせ・・・〕
―――フンンンン・・・・―――
―――スウゥゥ・・・―――
竜:お帰り・・・・我が子よ・・・。
キ:はい―――・・・。
竜:それよりも――― キリエや・・・?
キ:・・・・はい。
竜:血の、匂いがするようだねぇ・・・・
どうかしたのかい―――?
〔なんと・・・この、キリエの事を『我が子』と呼んだ竜。
以前に――― キリエが、その腹に収めてしまった、追い剥ぎ達の事を、瞬時にして察したようなのです。
しかし―――
その事は、この洞窟に入る時よりも、数週間も前の事・・・・
あの時より、幾度となく宿屋で入浴をし・・・血の匂いを、ましてや痕など、綺麗に消し去ったはずなのに・・・
でも―――
このとき、あの荒くれ共に、臆することなく立ち向かって行った彼女―――キリエの態度が・・・
急変し始めたのは、事実なのです―――。〕
キ:(ギクッ――!) そ・・そんな・・・はず、ありません・・・。 ち・・・・血の匂いなどと・・・・。
竜:本当・・・・・かい?
でも・・・おかしいねぇぇ・・・・・。
キ:(ううっ・・・うぅ・・・) おぉ・・・・お戯れ・・・・を・・・。(ガタガタ・・・)
竜:・・・・・なにを、そんなに打ち震えているのだい・・・・?
キ:(は―――・・・あぁぁっ!) ど・・・どうも・・・も、申し訳・・・ありません―――っ!(ブルブル・・・)
竜:・・・・・・・。
〔凛冽――――
あの時、盗賊共十数人に囲まれた時には、一歩も譲らなかったものを―――
それを、今の彼女は、当時自らが彼等に与えた同等・・・いや、それ以上の畏怖をして、恐れ戦(おのの)いていたのです。
しかも、それは―――
目上の者から、叱り飛ばされたりした時の怖さとは違う―――
いうなれば・・・
絶対的強者から与えられる―――
生命の危険性―――
この、一言に尽きたようです。〕
キ:も、も・・・・申し訳・・・・あ、ありません・・・。
ど、どうか・・・どうか、お赦しを・・・・。(ガタガタ・ブルブル・・・)
竜:・・・・・だったのなら・・・・素直に話すんだ・・・
・・・・キリエや・・・・・。
キ:は・・・はい。
は、始めは――― た、ただ単に懲らしめてやるつもりでした・・・で、でもしかし―――
こちらは急いでいたのに・・・向こうからけしかけてきて・・・。
あぁ―――っ! も、申し訳ありません―――っ!
ほ、ほんの・・・ほんの出来心・・・つ、つい魔がさしてしまったのでございます―――!!
竜:それじゃあ・・・食べてしまったというのだね・・・・?
―――人間を!!―――
キ:申し訳・・・・申し訳・・・・ありません――――っ!
どうか・・・・どうか、お赦しを――――!!
竜:この・・・・
―――大馬鹿者めが―――!!
キ:ヒ・・・・ひいぃっ!!(ビクッ――!)
竜:全く・・・なんて事をしてくれたんだい!!
これでは――― 私が、あの方に顔向け、できやしないじゃあないか!!
いつ――― いかなることがあろうとも、人間への手出しは無用! その事を忘れてしまった、お前じゃあないだろう!!?
キ:あぁ―――ッ その通り・・・その通りでございます・・・。
ですから・・・どんな重い罰でも、甘んじてお受けいたします―――! で、ですから、どうか アレ だけはご勘弁を―――!!
竜:この・・・・この私に、指図するというのかい・・・・。
お前も、相当に偉くなったものだねぇぇ・・・・キリエや。
キ:あ―――・・・・あぁっ! い、今のは、決してそういうつもりでは・・・・
問 答 無 用 !
〔メギドの焔―――
その、黒く凶々(まがまが)しい黒焔は、瞬時に生きとし生ける者の命を、尽(ことごと)くに奪い去り・・・
痕に遺されたるのは、穢れのみ――――とか・・・
そして、その黒焔は、例外にも、もれず、キリエの身にも・・・・〕
キ:い・・・・いやあぁぁ・・・・・
〔当然及ぶもの――― と、思われたのですが・・・〕
少:なぁ―――んてね?
キ:えぇ―――?(ス・・・) あぁ・・・っ、お方様!!
〔しかし、そこには、先程とは明らかに違う光景が・・・
そう―――
先程までいた、あの巨大な竜は、その姿を消し・・・
その代わりに、一人の幼い少女が――――
その少女、名を――――〕
ヱ:(ヱリヤ=プレイズ=アトーカシャ;??歳;女性;
一見すると、8歳くらいの少女、しかし、今までいた、かの巨大な竜が姿を消し、代わりにこの少女が・・・とは、
そう、あの竜が人形(ひとがた)の姿になったのが、この少女、なのではあるが・・・
今までの、彼女達のやり取りを見ていると、キリエより、数段上の能力を有しているのは明らか。)
全く―――・・・ それにしても、つい――― とか、出来心で――― なんかで、 ヒトを殺めたりしちゃあダメじゃない。
私達と比べて、あの種族、もろく出来てるんだからさ・・・。
キ:(ほ―――・・・っ、た、助かった・・・) もうしわけ・・・・ございません。
今後、気をつけます。
ヱ:そうね――― そうしてもらわないと―――。
それよりも、何? 人を腹に収めてまで、急ぐ用があるんでしょ?
キ:(あ―――・・・) はい。
実は――――・・・・