≪六節;吸血鬼の“真祖”≫
〔先程まで――― 床一面を朱に染めていた血はどこへ―――?? それは―――
それは、この城の地下400mにあるとされる
―――棺の中へ―――
その棺は、遥かな昔に、既に亡くなったとされる、この城主のモノだったのです。
実は、ここの城主―――
その昔は、とある方に仕えていたのですが、その方が亡くなられた折―――
その哀しみの余り、その眼より流れる泪だけではなく・・・全身をめぐっている、血という血を、全身の穴という穴から流しつくし―――
そして、悲観のうちに息絶えた―――
と、される、悲劇の主だったのです。
その方がここに眠っている―――ということは、この近辺で、旅人達がよく見かけるとされる
白く―――
透けるような美女―――
とは、やはり・・・・?!
―――と、それよりも、サヤの流した血を、どうやら棺の中の存在は、すっかりと取り込み終わり、
ゆっくりと・・・棺の蓋が、開けられた時に、伸びたその手は――――!!!
なんと・・・人の手の形をした それ ではなく――――
骨と肉に、血がまとわり付いたような感じのモノだったのです・・・。
そして――― 完全に棺の蓋が開けられ――――
中からむくりと起き上がった、その上体も・・・・やはり、先程垣間見えた腕(かいな)のような存在・・・・
しかし、その存在は、ゆっくりながらも、確実に動き出し・・・・地上への階段を、一歩・・・・また一歩・・・進んで行ったのです。
しかも、畏るべき事に、その存在は―――
歩を進める度毎に、自己の持ちうる強大な魔力と――― 宙空(ちゅうくう)に介在する、数多の霊魂を、その体内に取り込み始め―――
徐々に、昔・・・・総ての者を魅了させたといわれる美貌と、肉体を取り戻し始めていたのです。
そして――― サヤのいる、城の玄関口大ホールに着く頃までには、7万年前のあの容姿・・・・
菫色の長髪―――
その特徴のある、アンテナのような、跳ね上がったクセッ毛―――
クリムゾン・レッドの双眸に―――
口元から、ちらりと見える鋭い犬歯―――
その名を・・・・・〕
サ:どうも、お待たせを・・・わが君。(スッッ―――・・・)
エ:(エルム=シュターデン=カーミラ;??歳;女性;
この城=ヴァルドノフスク城=の城主、忠実なる下僕の血により復活せしめた、恐ろしくも美しいヴァンパイアの『真祖』。
ちなみに、その美しさは、『月も光を消し、華も恥らう―――』と、譬(たと)えられたほど。)
ご苦労であった――― わが娘よ。
サ:は――― はいっ! あ、あの・・・それより、わが君、な・・・・何か服を召していただかないと・・・(ぽっ)
エ:ふむ・・・。(ス――・・・ パチンッ――☆)
これで・・・どうだい?
サ:(あ・・・) は、はいっ!大変よくお似合いです!
エ:(フ・・・)まあ、世辞はそのくらいにしておいて・・・。
7万年の眠りより、私を起こした―――と、いうことは・・・
サ:はい、お察しの通り・・・我らの主上が復活しつつある・・・と、言うことです。
エ:そうか・・・また、逢えるというの・・・だな? あのお方――― 女禍様 に!!
〔久方ぶりに再会した主従、でも、サヤのほうは、なぜかしら顔を赤らめてしまっているようです。
でも、それは無理らしからぬ事・・・なぜなら、彼女の主、エルムのほうに問題があったのですから・・・。
では、その時のエルムの出で立ち―――とは。
肉感的なその体を、なんの惜しみもなく、曝(さら)け出した状態―――
それ故に、従者であるサヤに、窘(たしな)められたのですが―――
ヱルムが指を鳴らした次の瞬間、伝承などでよく知られているあの姿・・・・
宵闇のローブ―――
に
片肌脱ぎの、濃紫のカクテルドレス―――
それを、自分の魔力のみで、紡ぎ出していたのです。〕
エ:ところで――― サヤよ。
サ:はい、なんでございましょう。
エ:私は、この永き間、何も口にはしておらぬ。
それに――― よぅく御覧・・・“珠の肌”といわれたお肌も、
地下の乾いた、寒ぅ〜い処に放置されてたものだから、カサカサ・・・・
サ:は、はぁ――――
(だぁってぇ――― そりはわが君が、そうしろ――― って言われたから・・・・)(ぼそ)
エ:ンん―――? 今、何か言ったかい?
サ:えっ―――?(ぎくぅ〜り) いっ・・・いえ、なんでも・・・。
エ:ふぅぅン・・・・・・。
サ:は・・・ははは。
(あ・・・危ない、危ない、もう少しでナニ思ってるか、勘付かれるとこだったよ・・・・
それにしても――― 昔っからの疑問だったんだけど・・・わが君の、あのクセっ毛―――って、
絶対アンテナかなんか・・・だよねぇ〜?)
エ:(・・・なんてな事を、思ってんじゃあないだろうねぇ〜?)(←図星)
フん――― まぁ・・・よいわ。
ともかくも、今の私は、不完全な状態だ、魔力も以前からのと比べて、遥かに弱くなってきている・・・。
ゆえに――― これからお前に命じます。
サヤ・・・忠実なるわが娘よ、今より 血と魂 を、666集めてくるのです。
分かっているわね―――?
サ:は・・・・はぁ――――・・・・
エ:(ん――??) な、なんだい?歯切れが悪いねぇ・・・もしかしてお前、私の言う事が聞けない―――っていうのかい??
サ:い、いえ――― そうじゃなくって・・・それじゃあ、一つ聞いていいですか?
エ:(ぅん―――?) なんだい・・・?
サ:あのぅ・・・その、血に魂・・・って、人間のモノですよねぇ?
エ:(な・・・)ナニを言ってんだい!お前!!
サ:(ひっ!)
エ:あんな・・・口当たりもドロぉ〜〜っとしてて、脂くっさいのを・・・この私に飲ませる気ィ??!
サ:(あ゛・・・)じ、じやあ――― オークとか、ホブ・ゴブリンとかのですかぁ??
エ:サヤ・・・##
サ:(う゛ぃっ―――!)
エ:あんたって子は―――・・・あんな豚臭いのやら、イカ臭いのを飲めッてのかいっ!!
おおぉ――――イヤだ・・・考えただけでも、鳥肌が立ってくるよ・・・
サ:そッ・・・それじゃあ、具体的に何を採ってくりゃあいいんです??
エ:(へッ??)あ゛〜〜〜――――そ、それは・・・だね。
(えと・・・)つまり・・・そのぅ・・・い、いぃ〜〜から、何でも採ってくりゃあいいんだよッ――!
サ:(はぁ〜〜・・・)はぁいはい・・・つまり、なんでもいい・・・。
死にかけたのやら、死んで三日目ぐらいので、とりわけよさそうなのを、見繕ってくればいいんですよね?
エ:(うんうん)そうそう・・・死んでしまったり、今にも死にそうな者には、必ず悔恨の情というものがある。
それを出し尽くした者の血はねぇ、それはそれは喉越しも良くって・・・・
(って)な、なぁ〜んで、そんなしち面倒くさい説明を、私がせにゃあならんのだっ―――!#
とっととお行きっ―――!
サ:(はぁぁ〜〜あ・・・)結局これだもんなぁ〜・・・
素直に、“生きてて、どくどくと血が流れるのは苦手”って言えばいいのに・・・。
それにしても、あれだよねぇ〜? わが君ってば、吸血鬼のクセに、生血(しょうけつ)が苦手・・・だなんて・・・
だったら、何でヴァンパイアなんかに、なろうと思ったんだろ??
〔・・・・などと、説明臭い台詞を二・三交わした後、この真祖の忠実な僕であるサヤは、
これから・・・自分の主の、真の復活へと勤(いそ)しむべく、各地を奔走する事となるのです。
しかし・・・それにしても、このエルムというヴァンパイアの真祖、生きとし生ける者の、血と魂を糧とする種族でありながらも、
そういうのは、全くといっていいほど苦手・・・だったなんて・・・随分と、変り種もあったものですね。〕