≪五節;監査の騎士≫
〔それは―――ギルドの裏切り者が弑されてから、五日経ったときの事―――・・・
この期に及んでも、未だに婀陀那は、正気を保ち続けていたのです。
そのことに、次第に焦りを覚えだすカ・ルマの騎士・・・〕
騎:う・・・うぅ〜む、あの切り札を使っても、一向に口を割る気配すら見せやがらないとは・・・
一筋縄ではいきませんなぁ。
ド:もう少しきつい喋らせる手立てを講じる必要がありそうだな―――・・・
なぁに、背に腹は変えられんさ。
それに―――もうそろそろ上層部の痺れが切れる頃合だろうし・・・なぁ。
兵:――――伝令。
ド:ほぅれ―――噂をすりゃあ・・・だ。
騎:(ぅぅむ・・・)なんだ―――
兵:はっ―――本国より、監査の騎士がお目通りを願っておりますが・・・
いかがいたしましょう―――
ド:(フッ・・・)おいでなすったようだな―――。
まあ、無下に追い返して、こちらの心象が損なわれたらまずい・・・鄭重にお迎えして差し上げろ。
兵:ははっ―――
〔どうやら、その日が来てしまったようです。
そう―――尋問の成果が中々現れず、ついに業を煮やしたカ・ルマの上層部連中が、
事の如何を質すために、監査の騎士をこのゴモラまで派遣させたようなのです。
その監査の騎士を、砦の応接室にて出迎える二人の騎士。〕
騎:いや―――これはこれは、よくこられましたな。
監:――――・・・。
騎:ま、まあ―――こちらにでもかけたまえ。
監:・・・・うむ。
ド:(ぅん?)ところで―――・・・そなた、帯剣をしておらんようだが?
監:(フッ・・・)自国の領内で“剣を佩く”というのはいかがなものであろう。
ましてや、ワシはこの度ここに監査に来たのだ、戦でも起こらぬ限り、佩く必要性もないというもの・・・
それとも―――ここがもし敵国に攻め立てられ、ワシ如きが出撃せねばならぬ事態に陥うる可能性がある・・・と、いうことですかなぁ?
(ククク・・・)よもや、そなたらに限って、そのようなことが――――あろうはずもないよなぁ・・・。
騎:(むっ―――)
ド:・・・なるほど、そいつは一理ある―――
〔この砦・・・“ゴモラ”に監査に来た騎士とは、その姿はご多分に漏れず、漆黒の甲冑に、同色のフル・フェイスの兜を頂いていたので、
その者の容姿・表情を読み取りにくい事この上なかったのですが、
この監査の騎士が他より違っていた事といえば、剣を帯びていなかった―――と、いうこと。
騎士だというのに、ナゼ―――・・・?
その疑問に答えるべく、彼の者から出た言葉は、カ・ルマの軍事力が、強力無比だからなせる事であり、
騎士一人が剣を帯びていないからといって、なんら問題になろうはずがない・・・と、言うことだったのです。
ですが―――・・・ここで一つ、勘違いして欲しくない事が・・・
実は、今の彼の言葉は、いわゆる“方便”であり、ドズルたち二人を欺いていたということ・・・
そう―――この監査の騎士は、帯剣をしていたのです・・・それも、『刃の莫き名刀』を・・・〕
監:ところで―――・・・早速の話しで悪いのだが、かの虜囚・・・何かそれらしいことは喋ったか。
騎:んん―――? あ、ああ・・・・
監:どうした・・・歯切れが悪いな。
騎:ああ―――いや・・・実は思いのほか口が堅い奴でしてなぁ。
こちらとしても、あらゆる手立てを講じているのですが・・・一向に喋ろうとする気配すら見せない次第で。
監:――――ほほう・・・。
騎:なあ・・・やはり上層の方々は、痺れを切らしておいでなのか??
監:うむ―――かの、『女禍の魂を持ちし者』の所在を知りうる人間が捕らえられ・・・
その報より、かなり経つというのに、未だに成果が報告されないというのは、いかなる所以からか―――
―――と、上の方々は大層なご立腹であらせらるる。
ド:(・・・・フン)なぁに―――あともう一息・・・と、言うところよ。
監:“もう一息”・・・とは?
ド:うん? へっへっ―――あの虜囚も大分へばってきてやがる、口を割るのも時間の問題だということだ。
それに―――・・・“あれ”を服用していれば、我慢を重ねれば、重ねる度・・・こちらの思うツボ―――ってなところさ。
監:“服用”―――と、いうことは、『自白剤』かなにかを使用しておるのか?
ド:『自白剤』・・・・なぁる―――(ククク・・・)そっちの手もあったなぁ。
監:“そっちの手”・・・と、いうことは、それとは違うのか?
ド:(フ・・・)考えようによっちゃあ―――おたくの言った“そちら”より、効き目がある―――と、言う事さ。
なぁ・・・どうだ、お主も一度見てみんか、そいつのツラを・・・
監:――――いいだろう。