≪五節;存在理由(レゾン・デートル)≫
〔―――閑話休題―――
時に・・・魔城・コキュートスの、ある一室・・・
そこは、先程のあの者―――魔皇・サウロンの第一の側近であり、他の者達よりも、発言権の強かった者―――
ビューネイ=グリード=サルガタナス
の部屋。
しかし―――実は、ここに、未だ予測だにしえない、ある人物と・・・・
この、魔将・ビューネイとの間で取り交わされた、恐るべき密約が―――・・・・〕
ギィ―――・・・・・
ビ:(―――んっ?)・・・・何者だ。
シ:(ス―――・・・)
〔その―――・・・気になるべき、“ある人物”とは・・・
禽の一員であり、全身を黒布で覆った、ナゾの美女――――鴉こと、シホだったのです。
が、しかし―――シホを見た、この魔将の反応が――――〕
ビ:(ピク―――)誰かと思いきや・・・・・
シ:(・・・・フッ)
ビ:ご主人様ではございませんか――――
シ:・・・おぉや、思いのほか、ビックリしないものだねぇ・・・。
ビ:これは・・・・(フ―――・・・)ご冗談を。(フフフ・・・)
シ:それよりも・・・部屋の扉には、施錠をしておいたほうがいい。
今の私のように、難なく入られることも―――儘(まま)にある。
ビ:は――― が、しかし・・・あなた様程の方に、普通の錠前は、無意味――――なのでは。
シ:だが・・・他の者共には、十分有効な手だ。
ビ:そうですか・・・・かしこまりました、では早急に手を打ちましょう。
――――で、そのため・・・だけに、この私の部屋に入りなさったので?
シ:ふふ・・・・さすがは、察しがいいようだ―――・・・上出来だよ、私の可愛い・・・
―――ホムン・クルス―――
〔そう―――・・・
この時、魔将であるはずのこの男は、シホを見るなり、『ご主人様』と呼び・・・
シホもまた、彼の事を『可愛いホムン・クルス』・・・と、そう呼んだのです。〕
ビ:これは――――ありがたき倖せ。
シ:ところで―――だ・・・お前、他の六名達を、上手く手懐けているかい?
ビ:愚問―――・・・抜かりはありません。
シ:そうか・・・ならいい。
そこで・・・だ、デルフィーネの復活、ほんの少しだが、先送りにして欲しい。
ビ:はぁ―――・・・それは一向に構いませんが。
シ:そうか・・・いや、実はな、今、私が所属しているところの坊やが、なにやら動き出している・・・とのコトだ。
ビ:(ほぅ・・・)では、いかがいたしましょうか――――
シ:いや、それに関しては、アクションはおこさなくてもいい、寧ろ彼の者の、やりたいようにさせておけばいい―――
ビ:は―――
シ:それに・・・風の噂では、14年前に取りざたされた、ある者―――
ビ:ジィルガ=式部=シノーラ の、ことですか。
シ:ああ―――そうだ、あの・・・マエストロと同じ名を持った者が、“仁君”の魂を引き継いだ―――・・・
と、ばかり思っていたけど・・・残念だが、見当違いも甚だしかった・・・・
ビ:何しろ――― 直接、ご自身の目で、お伺いしましたからなぁ。
シ:うむ―――。
だが・・・今度は違うぞ・・・こんな、ドス黒い闇の中にいたとて、ビンビンに感じてくるだろう・・・・
あの子の――――女禍の魂の波動を・・・・!!!
ビ:ハイ・・・今度こそ、間違いなく、本物のようです・・・。
シ:(フフ・・・・)この時を―――・・・どんなに待ち焦がれたことか――――
この、魔皇滅亡の地で、あの子より先に、ヤツが復活してしまったのには、冷や汗モノだったが――――
お前のとっさ機転で、第一の魔将を、その体内に取り込み、それと同一化して、後事を取り仕切ったのは、見事なものだったよ――――
ビ:いえ・・・これはお恥ずかしい限りで―――
この凡才なる、我が身をお創り頂いた、あなた様への、せめてもの恩義の御標(みしるし)―――
と、そう思いまして・・・・。
シ:ふっ――― その思いだけで十分だよ・・・・私が創造(つく)った可愛いホムンクルス・・・
=ベェンダー=
よ・・・。
〔そして、ここで明かされた、衝撃の新事実・・・・
そう、それは、この者達は、互いが『主従』ではなく・・・むしろそれ以上の間柄、『創造主と創造(つくら)れし者』・・・の、 それ だったのです。
――――に、しても・・・7万年前に、100万の軍に匹敵する“武”を誇る、魔将の一人・・・
その筆頭を、その身体の中に取り込み、他の者を意のままに操れるとは・・・・
この、ホムン・クルス=ベェンダーに秘められた潜在能力は、他の生物のものの、それとは一線を画しているようです。〕
ビ:ところで―――ご主人様・・・
シ:うむ―――・・・お前も分かってのように、今世の現人神が、真に覚醒しうる時機(とき)まで、行動は慎め―――
幸いに、マエストロの“器”のほうは、お前だけが知り置いているコトだ・・・情報の操作くらいは、ワケないだろう・・・。
ビ:造作も・・・ないことで――――(ニヤリ)
シ:(ニィ・・・)では、頼んだよ・・・・
ビ:もちろんでございますとも―――・・・
我が盟主―――
『死せる賢者』
【リッチー】
ガラティア様
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〔そう―――この時、この者の従者は、確かにそう言ったのです―――
『死せる賢者』【リッチー】 ガラティア
―――・・・と。
この名は・・・今を遡る事、7万年前―――いや・・・それ以前の、この世界、天地開闢の刻より、やはり同じ名前が存在しているのですが・・・
まさか同じ存在―――と、そう取れなくもないのですが・・・・。
でも、結論だけを申し述べると――――
その刻より存在した者と―――
今、この場に存在しえている者―――
とは、
須らく、その存在は――――
―――同一である―――
のです・・・。
そう、とどのつまり、畏るべき事には、この シホ=アーキ=ガラティナーハ こそ、
その名を換え、気の遠くなる時間を生き永らえてきた、文字通りの『死せる賢者』だったのです――――
それにしても――― この大陸の、北の外れのドルメン(遺構)に奉られていた、“マエストロ”の魂を封じていた宝珠の強奪をし――――
“真”の 女禍の魂 を、受け継ぐ者の出現を心待ちにしていた、この―――死せる賢者・ガラティア―――の、企みとは・・・・
一体、なんなのでしょうか――――〕
To be continued・・・・