【補章U−5―――『九章』;迷いの杜】
≪一節;『血みどろの渓谷』より近い、ある村落≫
〔ここは―――“列強”の一つ、ハイネス・ブルグ国境の一集落・・・『ラ・メラー』。
(ちなみに・・・この集落は、かの『迷いの杜』に程近いとされている)
そして、今―――この集落に、『禽』のあの二人が入ってきたようです。〕
マ:ぷっひゃあ〜☆
遠回りすると、歩く距離も時間も倍々になっちゃうんすよね〜〜☆
ここにつくまでに、もう日が暮れちゃったダニよ☆
ナ:仕方がないだろ―――・・・あの“杜”を通れば、
今頃は風呂にでも入って、飯でも食べてたんだろーけど・・・
マ:(う゛いよ〜)ヘタして迷っちゃって・・・ユーレーさんとお見合い〜☆
ッてのは、洒落にもなんないっすからね。
ナ:(フ―――・・・)全くだ・・・。
〔どうやら・・・・=梟=のナオミと=鵙=のマキの二人は、
今、彼女達が言ってたように、この集落にはいってきた手段も、
かの・・・不気味な、ある“噂”の絶えない、この“杜”を遠巻きにしてきたようなのです。
この『禽』の二人をして、余り相手にしたくない存在・・・・
それこそが―――いくら傷つけても、びくともしない・・・亡者『アンデッド』・・・
だと、いうこと―――。
かつて―――この杜に迷い・・・そして朽ちて逝ったヒューマン(人間)や、妖魔・・・・
その屍んで逝った者達が、その次に標的にするのは、“生者”―――
それが、例え同属であろうが・・・見境いもなく襲ってくるというのです。
しかも、まだ畏るべき存在が、この杜の奥深く・・・・通称<ブラッディ・ミスト>〔血みどろの霧〕のたちこめる渓谷・・・
=ヴァルドノフスク渓谷=
―――その渓谷に、居城を構えているというのです。
そして―――その存在こそは・・・・
=屍したる者を、統括せし者=
〜ヴァンパイア〜
それだから―――なのでしょうか・・・この村落には、それに対抗するべき措置が・・・〕
マ:・・・・ん、にしても、各家に、にんにく吊り下げてる〜って・・・
案外ベタですよね―――
ナ:まァ―――な・・・『聖水』『銀』『にんにく』といえば、数少ない“対吸血鬼”用の防護策だからな―――
――コン☆コン――
スミマセ〜〜ン、どなたかいらっしゃいませんか〜〜―――
ギィ〜〜――――・・・・・
老:・・・・・なんです?
ナ:あぁ・・・すみません―――
ちょっと宿をお借りしたいんですが・・・
老:・・・・・。(チラ)
マ:(ニへへ〜〜―――)どもっ―――☆
老:あんたたち・・・あの“杜”から―――
ナ:・・・来たんじゃなくて、あの杜を遠回りしてきたんです。
だから、こんなに遅くなっちゃって―――無理は承知の上ですから、そこを何とか・・・
老:・・・・まぁ、お入んなさい――――
マ:やた〜〜ラッキ―――☆
あんがと、おばぁちゃん。
ナ:こら・・・マキ――――
老:ふふ・・・・元気のいい子だねぇ〜〜―――
あの子を思い出しちまうよ・・・
ナ:す・・・すみません―――
老:なに、謝ることはないよ―――
この老いぼれの・・・たった一つの宝だった孫が・・・・あの“杜”に取って喰われちまったんだからねぇ・・・。
マ:(おわ・・・言ってた傍から・・・・)
ナ:それは―――お気の毒でしたね・・・。
〔ちょうどこの時―――ナオミが、泊めてくれそうな家に目星をつけ、そこをあたったところ・・・
そこからは一人の老女が・・・。
そして、何とかその老女からは、許しが得られたようです。
でも―――その老女の口からは、やはり・・・というべきか、ある事実が・・・・
そう、かつて、この家で一緒に暮らしてきたであろう孫娘が、
かの杜の怪異によって、攫われていなくなってしまった・・・・と、いうのです。
その出来事に、少々気の毒に思いながらも、それ以上は深入りしないように心がける『禽』の二人・・・。〕