≪五節;熊狗≫
〔それはさておき―――明日の朝も早いから・・・と、いうことで、床に就く四人。
―――が、しかし・・・暫らく経って、この二人が、外の異変に気がついたのです。〕
マ:・・・・お頭――――
ナ:・・・・気付いたか―――
マ:気付くも何も、外でガサガサ云ってるじゃないすか―――
ナ:・・・・・上手く“すくみ”を使え。
こちらが動かなければ、じきに去るだろう・・・。
〔それは―――・・・もう何もかも、しんと静まり返った刻でした。
それは―――人も、魔も、獣も、蟲も、草や木でさえも、深く眠る時間・・・
そんなしじまの刻を、邪魔するかのように、沸いてきた存在が二つ―――
でも、こちらが変に動きさえしなければ、そのうちに向こうから去るだろう・・・
そう踏んだナオミは、ただじっと絶えて待つように、マキに言ってきかせたのです。
でも―――この二人の行動までは、予想の範疇の外でした。
“二人”・・・そう、この家の主の老女と、あの娘――――は、
外の様子が“何事なのか―――”と、目を醒まし、ナオミとマキのところに来てしまったのです。〕
老:あの―――・・・
ナ:おきてしまったんですか・・・あなたたち。
老:ええ・・・この娘さんが、外の様子がおかしいって言うもんだから―――
ナ:(ヤレヤレ・・・)参ったな―――
オイ、そっちの方はどうだ―――
マ:うえぇ〜〜―――っ、なんだよ、あれ・・・・
ちょっとこっち来て下さいよ―――
ナ:なんだ―――どうした―――
マ:あれ・・・見て下さいよ――――
〔今・・・外を騒がせている二つの存在――――
まるで墨を塗ったような、暗闇の中に、爛々と光る四つの輝点――――
それが何者なのか・・・と、思っていたら―――
空に昇っている月を覆い隠していた雲が、一気に晴れ上がり・・・その、煌々と輝ける月光の下(もと)に、
この不気味なまでの存在を、浮かび上がらせてきたのです―――
しかも・・・それは、思わず身の毛もよだつような、巨(おお)きな存在―――〕
ナ:(うゲッ!!)あ・・・あれは、『熊狗』じゃあないか―――!!
〔『熊狗』(くまいぬ)・・・・“魔狼”(フェンリル)の亜種で、またの名を≪ベアー・ウルフ≫と呼ぶ。
この種は、身体も巨きく、性格も獰猛であるとされている。
そして――― 一説によると、ある魔物・・・『ヴァンパイア』の下僕であるとされている・・・。
そう―――その二つの存在こそ、最も注意しておかなければならない存在だったわけなのです。
では、この熊狗たちの目的とは・・・・それは、紛れもなく―――〕
娘:ああ・・・・っ!!あの二匹―――!!
ナ:・・・・そうか―――やはりあなたを追って・・・
娘:す・・・すみません―――
ナ:(ふぅ・・・)仕方が―――ないな・・・
マ:ちょ―――ちょっと待ってよ!!折角助けてあげたのに・・・可哀そうじゃないか!!
ナ:しかし―――そうは言ってもなぁ・・・・
マ:なんだよ―――・・・見損なったよ!!
自分たちの都合が悪くなったら、スッパリと切り棄てちゃうのかい―――?
だから・・・あの時――――
ナ:・・・分かった―――悪かったよ・・・。
そいつを持ち出されると、さすがに耳が痛い―――
マ:そ・・・それじゃあ―――
ナ:ああ、一度乗りかかった船だ、二人で追い払うことにしよう―――
マ:いっしゃぁ〜〜―――まかしときぃ〜☆
〔やはり―――それは紛れもなく、獲物であるこの娘を連れ戻しに来たという・・・
畏るべきヴァンパイアの手下だ―――と、いうことは、この娘からの証言でも分かってきたことだったのです。
そこで―――ナオミが下した判断とは、この娘には悪いとしながらも、彼女を熊狗達に引き渡す―――というもの・・・
でも、このことにマキは反発したのです。
その反発も、普段の彼女からは考えられない事―――・・・
でも、たった一つのことを引き合いに出すと、ナオミはあっさりと、マキの案を受け入れたのです。〕