【補章V――――『十三章』;次元の果ての真実】
≪一節;カ・ルマ平定戦≫
〔かつて・・・女禍様は、そのお言葉の中で、
『現在(いま)この地に残っている伝承は、丞相といわれる優秀な官僚によって、都合のいいように編集されたものだ』
と、言ったことがありました。
では―――? この度アヱカに見せたあの映像は―――??
確かに、あの映像も真実を映していたのですが・・・そのところどころを、かいつまんで映し出されたものであり――――
完全なものではなかったのです。
それでは、ここからはウソ偽りのないものを、今ここに――――
時は――――そう、あの場面・・・『大尉・驃騎将軍』といわれる“武官”と、『丞相』とが、
激しくその意見を論じあっている場面――――でございます・・・。〕
驃:そんな―――!! 何をおいて、今更、講和などと・・・・虫の良過ぎる話です―――!!!
もう一度、お考え直し下さるよう―――!!
丞:黙らっしゃいっ――――!
これは、皇御ン自らが打ち立てた方針です、お前如きが口を出すべき問題ではない―――!!
驃:し・・・・しかし、丞相―――!
丞:・・・・もう、よい。
お前はもう座りなさい、大尉・驃騎将軍―――
驃:っっ――――くっ!!
文:(お前・・・様・・・・)
丞:申し訳ございません、陛下・・・。
このことは、絶対口出しせぬよう、堅く言って聞かせていたのですが・・・。
皇:しかし―――皆にも申し訳ないことをしたと思っている・・・。
折角、大陸にある諸侯を説き伏せ、優勢に持ち込めたものを・・・・だけど、判って欲しいんだ。
私も、或る人から、よく言って聞かされた事・・・
『“勝つ”ということ、それ自体そのものは問題ではない、
ただ、それが余り持続しすぎると、驕ってしまって返って手痛い目にあってしまう事もある、
程よく勝って、手を結ぶべきが、最良の策なのだよ。』
・・・・と。
驃:し―――しかし! あやつらの・・・カ・ルマ共が、この期に及んで、和議を申し立ててくるなどというのは、
新たなる防衛線の構築・・・それと、崩れた軍の立て直しを図るためのものなのでは・・・
丞:そこまで判っているのなれば―――もう何も言わないでおきましょう。
驃:(え・・・っ??)じ・・・丞相?
文:それは・・・どういう事なのですか?お師様。
丞:もうよろしい――― 今日の朝議はこれまでといたします。
散―――!
驃:じ―――丞相!!
〔この、近年においても、余り見慣れない真紅の鎧を纏っていた武官――――大尉・驃騎将軍は、
この・・・カ・ルマの講和の時機が、あからさまに―――怪しい―――と感じたのです。
それというのも、今までのその戦力は、まさに五分五分・・・いや、強いて言うのであれば、
ほんの少しばかり、カ・ルマのほうに分があったものを・・・・それを今においてどうして―――とも取れなくはなかったのですが、
やはりそこには、それなりの事由が存在したわけであり・・・その事由というのも―――
かつて、カ・ルマが所有しており、難攻不落として知られていた、天蓋の大要塞―――マディアノ―――が、
驃騎将軍の手によって陥落されたのを機に、カ・ルマ側から和睦の話を持ち込んできたのには、
これもまた、何かの陰謀が隠されているのでは―――とも、取れたのです。
―――が、しかし・・・丞相は、シャラディアの首脳はこれを受け入れた―――そのことに驃騎将軍は、反発したのです。
そして、場所が変わって・・・・皇の自室にて―――〕
皇:姉さん―――いや、丞相は、あの時一体何をお考えだったのです?
丞:・・・・・・。
皇:――――・・・ところで、姉様は・・・マエストロは、此度のカ・ルマの申し出、どのように思っているので?
丞:そのことは――― あなた様が、もうお決めになられた事でございます。
私如きが、とやかく言う筋合いは―――
皇:そう、言わずに・・・
丞:そうですか・・・でしたらば―――いま少し、その時期は尚早だったように思われます。
皇:だったら、どうしてそのことを・・・・
丞:言ったらば――― お取り上げになってくれたでしょうか?
皇:(うっ―――・・・)そ、それは・・・・
丞:この永きに亘(わた)って、争いを繰り返しているがゆえに、兵も―――また民も疲労困憊しはじめている・・・・
だからこそ、一挙に攻めるべき――― と、そう申し上げておいたはずでございます。
ですが・・・あなた様は、以前に非戦論者の言を取り上げなかったがために、この度はその者達の言を取り上げた・・・・
確かに―――戦をせずに勝利するという事は、最上の策と思われますが・・・非道なる者達にその憐みは通じません、
下の下だと思われるのです。
皇:――――・・・。
丞:申し訳ございません・・・。
少々口が過ぎてしまいました、お怒りでございましたなら、この丞相目をお罰し下さいますよう。
皇:いや―――この私の思慮のなさが招いてしまった誤解であり、失策だったようだ・・・
それに、怒るべきは、マエストロ以下の臣下の者達へではない、この―――至らない皇、私自身にだ!!
丞:いえ・・・この私の口の足らなさにも、因があったように思われます。
皇に於かれましては、もう少しご自愛頂かれますよう・・・・。
〔本日の朝議にて、驃騎将軍と、姉である丞相のやり取りが、ただならぬ雰囲気であった――――
そう・・・皇・女禍は、感じぜずにはいられなかったのです。〕