≪二節;破られた平生≫
〔――――が、しかし・・・やはり彼らの申し立てた講和には、裏が存在したのでした。
あれは、そう―――カ・ルマとの和睦が成立し・・・一年と月日が経たないある日の事でした―――〕
驃:ご注進―――!ご注進にございますッ―――!!
おいっ、陛下は・・・丞相閣下はどこにおはす!
文:ここにはいないわよ・・・・陛下とお師様は、先程中庭の方に行かれたわ・・・。
それにしてもお前様――― そんなに息を切らせてどうしたというんだい?
驃:そ、そうか・・・中庭か、よし、判った―――!!
文:あぁっ―――ち、ちょいとお待ちよお前様、一体何があったというんだい??
驃:うるさいッ―――! 今はそれどころではない・・・お前には関係ないっ!!
文:そ・・・そんな言い方って!!
〔これは、とある武官と文官とのやり取り―――
そして、このとき何かしらの情報を手に入れ、慌ただしく皇の自室に駆け込んできたのは武官―――驃騎将軍であり・・・
その部屋の中を片付けていたのは、ちょっと前髪に特徴のある文官――――御史大夫・車騎将軍なのでした。
そして、その文官―――御史大夫・車騎将軍のいわれるままに、シャクラディア城・中庭に足を運ぶ驃騎将軍が・・・〕
―――ご注進にございます!!―――
丞:何事ですか、騒がしい―――
驃:お畏れながら、申し上げます――――
丞:・・・・カ・ルマ、再軍備の件――――ですか・・・
驃:な―――・・・なんと・・・ご存知だったのですか?!丞相!!
丞:昨晩・・・天文を見ていましたら、北西の空に暗雲が立ち込めるのが、見て取れました・・・
あの者達が、何か企んでいると睨んでいたのですが・・・それが、これほどまでに早かったとは―――
皇:で、では―――至急諸官を招聘して・・・
丞:いえ、それはならぬ事です。
皇:(な・・・)ど、どうして―――
丞:もし、それをなさろうとすると、またもや非戦論者からの横槍が入り、遅きに失する虞れがあるからです。
皇:そ―――そうか・・・ならば、どのようにすれば・・・・
丞:なに・・・ご心配なさらずとも、それにはうってつけの策を用意してありますゆえに・・・(ニ・・・)
皇:(えっ??)うってつけの―――策? それは・・・どういう?
丞:はい―――では、申し上げます。
陛下にはお畏れながらも、不本意ではあるかと存ぜられますが―――これから病床に就いてもらうのです。
皇:えっ??病床に?? でも―――私はいたって健康体で―――
丞:だからこそ―――なのです。
“敵を欺かんとするなら、まづはその味方より”・・・と、申すのも策の一つでございますれば・・・
驃:で―――でも・・・その理由が・・・・
丞:なに、理由など後からどうとでもつく。
『激務よりの心労のため、お倒れになられた』―――とでもすれば、都合もつくでしょう。
皇:し、しかし―――だとしたら、見舞いと称して訪れる者が・・・
丞:ご安心を、それも手は打っております。
これ――――ベェンダー!
べ:ハハっ―――これに・・・・
丞:よいか、お前はこれより、陛下のお部屋の前に立ち、訪れようとする者達を悉くに帰すのです、
判っておりますね。
べ:御意―――
〔和議はなった――――しかし、その一年を待たずして、驃騎将軍からもたらされた、カ・ルマ再軍備の一報・・・
でも、その有事をも、この“丞相”は見通していたのです。
そして、今度は後手に廻らぬよう―――丞相、取って置きの秘策をもってあたったのです。
では、その秘策とは・・・
病でもないのに、皇を偽りの病で倒れた事にし、他の者(これは、“非戦論者”と、カ・ルマの両者)を牽制しようとする策だったのです。
そして―――皇の自室には、皇と丞相が・・・〕
皇:しかし―――なんだか後ろ髪が曳かれる想いだ・・・
丞:そうは申されずに――― 万が一は、この私めが総ての事をひっ被ればよいまでの事・・・
皇:で―――でも、それでは姉様に・・・
丞:・・・・それよりも、早くお支度を――――
皇:(ん―――?)・・・これは!!
丞:今より―――私と共に、コキュートスへと乗り込むのです。
皇:(!!)で・・・でも、私達二人だけで、どうにかなるものなので??
丞:いえ・・・すでに先遣隊として、『槍』と『盾』に先行させております。
皇:あの子達が―――?!!
丞:そうです・・・それに、奇襲を行うのなら、敵も―――ましてや味方も知らないでいる、今を於いて他はないのです!
皇:・・・・よし、判った―――!
姉様が、ここまでお膳立てをしてくれたんだ・・・それに、ここでこの私が出ないわけには行かない、
ここで・・・総てを終わらせるんだ――――!!
丞:(お姉さま・・・遠い次元の果てで、この子の成長振りを、見ていて下さっていますか・・・?
この子は優しすぎる一面を持ち合わせ、とてもこの混沌とした世間を渡ってはいけないだろう・・・
そう、あなたはおっしゃっていましたね。
そして、そんなこの子を補佐するために、一緒についていくと決心した私を・・・
あなた様は『過保護すぎる』と嗜められました。
でも―――それでも、この子は独りで立ち、泣き、笑い・・・総ての苦楽を万民と分かち合える悦びを知ったのです。
そして、今では―――皆から慕われる皇とまでなったのです・・・・。)
〔丞相はこのとき、皇の目の前に、一揃えの軽装鎧を用意し、自国であるシャクラディアを密かに抜け出し、
敵、カ・ルマ本拠のコキュートス城へ、奇襲をかけるように促したのです。
なぜならば―――
味方の非戦論者が、カ・ルマのなしようを知らないでいる今―――・・・
そして、皇が治める国、シャクラディアを出し抜いていい気になっているカ・ルマを叩くために―――
そして、総てを帰依するために・・・皇と丞相は立ち上がったのです。〕