≪二節;“子爵”―――と、呼ばれし者≫
〔しかし―――同じくして、この二人に降りかかった“不幸”とは、
魔獣・トウテツより上位の“存在”が、この『追尾』に加わってきた―――と、いうこと・・。
しかも―――驚くべきことに、その存在は、『徒歩』『乗馬』『飛行』などの=移動手段=を一切行使することなく、
いわば、いきなり―――その空間より湧き出てきたのです。〕
〜ぼわん〜
魔:ンフフ――――・・・
魔:{・・・申し訳ございません―――任務の途中で、お呼びだてしてしまいまして・・・。}
魔:・・・なぁに、いいってことさ―――
それに、この場所は、あのお方の<徘徊>の“道筋”でもある・・・。
まかり間違って遭遇しちまって、あのお方の餌食にさせなくてもいいだろ・・・。
魔:{(ふっ・・・)確かに―――}
〔その存在―――水色にも、銀にも見えるような頭髪を頂き・・・
その頭髪を、行動の邪魔にならないように、背後で一つの三つ編みにしているようです。
しかも、その両の眼(まなこ)には、爛々と燃える金色(こんじき)の眸(ひとみ)・・・・
口からは、ニョキリと伸びた鋭い犬歯―――
そう・・・その存在こそ、古えより伝えられたる、畏るべき種族―――
=ヴァンパイア=
だったのです・・・。〕
魔:{うん――――!!?}
ヴ:・・・・気付いたかい、マダラ―――
どうやら片方は、これからまだまだ、たたき上げにゃならんようだが―――
もう片方は―――・・・(ククク・・・)
マ:(はぁ・・・・){子爵様―――}
ヴ:おおっ――――と、悪い悪い、何せこの私を見ても、微動だにしないんだからねぇ・・・
嬉しくなってくるのも無理はないだろ―――?
――――・・・と、いうわけで、未熟な方、頼んだよ・・・。
〜ぼぅ―ん〜
〔その・・・畏るべき存在が、突如として空間より現れ出でた、その瞬間―――
不覚にも、ナオミかマキ・・・どちらかの『すくみ』が解けてしまったようです。
でも、それは間違いなく―――〕
ナ:≪バカっ―――!ナニやってんだ!!≫
マ:≪(ひ、ひぃぃ〜)で・・・でぇ〜もぉ―――あの綺麗なお姐さん・・・いきなしなんだよ?
いきなし・・・なんもない処から――≫
ナ:≪くっ・・・それより、すぐそこから離れ〜〜〜――――・・・・≫
(あ・・・っ?!)あの女が―――消えた?!!
〔どうやら『すくみ』の解けてしまったのは、マキの方・・・それをナオミは咎めるのですが―――
『すくみ』が解けたことで、その位置が割れてしまったマキを、すぐその場から離れるように促そう・・・
そう思ったとき―――ナオミが、あの者達のいる地点に目をやると・・・
なんと、ヴァンパイアだけがいなくなっていたのです―――
でも、間もなくナオミの背後より―――・・・・〕
ヴ:なぁ・・・あんた―――他人様のお庭で、なにやってんだい?!
ナ:(ビクッ!)(あ・・・アタシの背後―――から?!!)
くっ―――・・・(トン―――・・・)
ヴ:(フフフッ・・・)おやおや―――元気のいいこったねぇ・・・。
〜ぼわん〜
§
〜ぼわん〜
ヴ:こっちは、ただあんたに“ごアイサツ”しようとしただけだろ〜う?
ナ:うっっ―――・・・ぐ!な、なんてヤツだ・・・もう追いついたのか?!
く、くそっ―――こうなったら・・・
ダッ―――・・・
ヴ:あっ―――ああっ!!だ・・・ダメだって!そっち行っちゃ・・・・
あぁ〜〜あ、こっちが止める間もなく、あの杜の方向へ行っちゃったよ―――・・・
やぁっべ―――こうしちゃおれん、さっさと止めに行かなきゃ・・・。
〔このヴァンパイアがいっていた“あの杜”・・・とは、間違いなく『ヴァルドノフスク』の、<迷いの杜>のコト・・・。
そう、なんと、あろうことか、ナオミはその杜の方向へ、無意識のうちに足を運ばせていたのです。〕