≪四節;隧道工作≫

 

 

〔その一方―――こちら、三大兵糧庫最後の一つ、『ヨウテイ』では、

智将・カインがこの砦を陥とすべく―――の、策を張り巡らせていたのです。〕

 

 

兵:お〜〜い、腰抜けぇ―――! さっさと砦の外に出てきて、オレたちと戦ったらどうだぁ〜?! 

兵:へっへ―――出来るわきゃあねぇだろ??! 日頃は鎌や鍬持ってるやつらが、

  こんなときだけ剣を持ったってよう―――

 

兵:ああ――――それもそうだなぁ〜〜〜?

 

〜ギャ――――っはっはっは!〜

 

〔砦の外から容赦なく浴びせられる、あらん限りの罵詈雑言・・・・

しかし―――そんなもので頭に血が上り、砦を出たところを討たれる・・・とは、

古今にも見られる“戦法”の『常套』なのですが――――

 

なぜかそこには、まるで 無人 の如く無反応な砦が・・・

しかし、これを見たカインは―――〕

 

 

カ:(ふうむ―――まづは初歩的なものでは動いてはくれんか・・・

  ま、当然といえば当然か―――こんなモノ如きで踊らされて出てくるようじゃあ、

  国の生命線たる『大兵糧庫』は任されやせんよ。

 

  ―――だが・・・寧ろこちらにとっては、それは好都合なんだが・・・ね。)

 

 

兵:ああ―――カインどの・・・。

  向こうさんの砦は未だ反応無しですが・・・もしかすると我らは嘗められているのでは??

 

カ:イヤイヤ、これでいいんだ。

  君らはもっともっと騒ぎ立ててくれたまえ。

 

  ここで―――何をしているのかすら、分からないくらいに・・・・なぁ。

 

 

〔いくらバカにしたような文言を連ねたところで、肝心の相手の方は無反応―――

これでもまだ、向こう側から礫(つぶて)でも戻ってくれば、ある程度の対策のなしようがあるのですが・・・

全くの無視をされていることに、カ・ルマ兵も焦りを募らせ、またイラついてもいたのです。

 

ですが―――実は、そちらの方がカインにとっては都合がよかったのです。

なぜならば・・・彼の言葉の中にもあった、『ここで何をしているか』―――・・・

 

そう・・・ここでは、陣営の外で騒いでいるのと、全くの同時進行で、“あること”がなされていたのです。

では―――その“あること”とは・・・??〕

 

                                     

パラパラ・・・

 

 

工:・・・よし―――抜けたぞ・・・!

工:そうか、ならば早速カイン殿に報告を―――

 

カ:――――ナニ?抜けたか?!! そうか・・・よし―――よし――――

 

 

〔ヨウテイの―――この砦内の片隅に空けられた不自然な穴・・・そこから差し込んでくる陽光を確認したとき、

この土中を、まるでケラモグラのように這いずり回っていた者達は歓喜しました。

 

そして、それは当然この作戦の立案者であるカインも・・・

 

そう―――彼らが今していたこととは、『隧道』・・・いわば陣の内部から、砦へと通ずるトンネルを掘っていたのです。

 

昼中には―――陣の外で喚きたてる事で、そちらの方に注意をひきつけておき、出来うる限り砦へと近づく・・・

夜は夜で―――しじまを縫うようにして、ゆっくりと慎重に掘り進んでいく―――・・・

 

あと問題なのは、この『出口』だということ・・・

 

当時は、未だそんなに測量技術とかは確立していなかったので、

さすがにそこばかりは掘り進んでいる工作兵たちの勘だけが頼りだったのですが・・・

今回の隧道の出口は、砦広場のど真ん中―――ではなく、片隅の方に・・・とは、まさに『上出来』だったようです。

 

 

そして―――そこから、この隧道を使って一瞬の下にヨウテイ内に詰め掛けたカ・ルマ軍は、

難なくこの砦内の全クー・ナ兵を虜囚にし、ここで事実上クー・ナの『三大兵糧庫』は、陥落の憂き目に晒されたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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