≪五節;“王都”を臨みたる者≫
〔こうして―――僅か数日のうちに、この国での生命線と呼べるものを抑えた、カイン率いるカ・ルマ軍は、
このあとも次々と進撃を続け―――また、この国の防衛体制をよく知るギャラハットの指南の下、
いつしか王都である『ハルナ城』を視野に捉えていたのです。〕
ギ:カイン殿―――・・・
カ:うん?うん・・・とうとうここまで来てしまったねぇ・・・。
元々この国の将であったあんたさんが、こういう形でこの城を臨むことになるとは―――思っても見なかったかね?
ギ:いかにも・・・ですが、ワシらとて無事にはすみますまい。
カ:・・・辛いかね―――今なら、私の馘、打ち落としてまたクー・ナに付くというのも・・・
ギ:・・・そのようなこと、たとい冗談でも言い置かれるな。
確かに―――今ワシがしておることは、唾棄されてもいたしかたのないこと・・・。
しかし、背を向いておる者を、背後から斬れ―――などという武人においても、最も恥ずべき行為を・・・・
カ:“武人”か―――その潔さは、まさに『職業病』・・・だねぇ。
〔ここまでの―――クー・ナと、カイン率いる軍との戦により、総じての被害というのは、まさに皆無に等しいものでした。
それというのも、この国の将兵は、ギャラハットの軍の手並みというのを知っており、
よく言えば『無血開城』―――悪く言えば、『自分の命惜しさ』に、皆ひれ伏していたものだったのです。
しかし―――そこでカインは不適切とも取れる言動・・・
背後を向いている者を斬れるか―――・・・
その一言にギャラハットは憤った・・・それは、小波(さざなみ)さえ立たぬ、“水鏡の士大夫”らしからぬものでした・・
それを見てカインは、さらにこう付け足したのです。
その潔さ、まさに“病”なり――――
と・・・
ですが、その潔癖すぎる 病 も、元を辿れば、ギャラハットがこの国古くからある、正当なる騎士の称号・・・
= 聖 騎 士 =
パ ラ デ ィ ン
―――だったから・・なのかも、知れません。〕