≪六節;無血開城≫
〔閑話休題――――
王都・ハルナを取り囲んでいる軍勢の中に、この勇将の姿を黙認した兵士たちの間には、少なからずの動揺が―――・・・〕
兵:あ―――あれは・・・!!
騎:だ・・・団長―――?!!
騎:それに・・・見ろ、あれはヒヅメさんじゃあないか――――
騎:あの噂は本当だったのか・・・・
兵:そ・・・それに〜〜―――ミルディンさんも、ギルダスさんも、
ハイネスの方に流れていった―――っていうし・・・
兵:い―――いよいよこの国も終わりか・・・
〜――わいわい・がやがや――〜
〔前(さき)の防衛線では、満を持しての主力を傾けたのに―――だったのにも関わらず、智将・カインの策謀に踊らされる結果となり、
また、ギャラハットを初め、ミルディンとギルダスの軍までも総崩れ・・・
おまけに、ハルナ城を取り囲んでいたのも、大半はカ・ルマに下った、元クー・ナの兵士だったのでした。
だから―――本国に残っている連中はもとより、実は攻め手であるカ・ルマ側でも、
取り囲んだはいいものの、このあとどうやっていいかの手立てさえ打てなかったのです。
しかし―――この者だけは、こうなるであろうことを、予め想定していたらしく・・・〕
カ:(スラスラスラ〜〜――――)・・・どれ、出来たぞ。
誰か―――この書状を携え、かの城までいってくれる者はいないかね。
将:―――――・・・。
将:―――――・・・。
将:―――――・・・。
カ:(・・・やはり、おらぬか――――)
〔カインは―――この方面での攻略を任されていた者は、ハルナ城を包囲していた当初より、何かに没頭しているようでした。
でも・・・それこそは――― クー・ナの血を一滴と流さずに、遍(あまね)くカ・ルマ側に組みさせるモノ・・・
『降服勧告状』
それが出来上がった―――と、いうのですが・・・
やはり、そこには、誰一人として、自らが進んで使者に立つ者など、おりはしなかったのです。
すると―――やおら、意を決した一つの声が・・・〕
ギ:・・・・その任―――このワシが預かろう。
ヒ:(・・・え? お、お養父(とう)さん―――??)
カ:・・・ギャラハット殿―――そうか、御身が行ってくれるか・・・。
辛い仕事になるが、頼みましたぞ。
ギ:(フ・・・)お任せくだされ―――
ヒ:・・・待って―――! お養父さんが行くなら、アタイも―――・・・
ギ:(ヒヅメ・・・)そうだな―――・・・カイン殿・・・
カ:(フ―――)いいんじゃあないのかね、あんたさんたちは養父子(おやこ)だ・・・異論を唱える者もいないだろう。
―――それに・・・
ギ:(ぅん?)それに―――?
カ:・・・イヤ、なんでもないよ―――
〔その大役を願い出てきたのは、意外にもあのギャラハットなのでした。
自分の元いた国の者達に、“これ以上抗うことのないよう、宜しく従うべく”―――の、由を伝うるべく・・・
イヤ、しかしそれは、今までに恩恵を受けた処になすべき所業ではありませんでした。
だからこそ、そこにいた元クー・ナの将兵であり、現カ・ルマの将兵たちの口は重たかったのですが・・・
やはりこのまま戦線が膠着したままで―――と、いうのは、どちらにとっても望むことではなく・・・
つまるところギャラハットは、こうしたカインの意向を、汲んだ象(かたち)となっていたのです。
こうして―――今・・・ギャラハットとヒヅメの養父子(おやこ)は、ハルナ城・玉座の間に―――〕
官:ギ・・・ギャラハット殿―――それにヒヅメ!! お、お主ら〜〜・・・
ギ:・・・そなたらは黙っていて頂こう―――
ヒ:――――・・・。
ジ:(ジョドー=フレデリッツ=カンタール\世;68歳;男;クー・ナの国王、滅び行かんとするこの国に、ナニを想うのか・・・
その胸中を知る由などない―――)
――――・・・・。
ギ:・・・お久しぶりですな、閣下―――
ワシと閣下―――よもやこうした象(かたち)で、また相見(あいまみ)えんとは・・・・
夢にも想うておりりませなんだ―――・・・
(ス・・・)ここに―――ワシ等を統率する者よりの書状が認めてあります・・・宜しくお目通しのほどを・・・
〔“元”の 主従 の間には、これといって会話らしい会話はありませんでした・・・
一方はこの国、クー・ナの国王であり、宜しく諸百官を纏め上げていた者・・・
かたや―――その王が即位して以来の忠臣であり、今、こうして降服の勧告を勧めに来た者・・・・
現在の立場上は違えども、そこには少し奇妙なものが存在しえていたのです―――・・・
そして―――カインが認めた書状に目を通す、クー・ナ国王ジョドー・・・・すると―――〕
ジ:(ふぅ・・・)―――聞けば、此度は戦らしい戦は展開されなかったそうだな・・・。
ギ:は――――・・・
ジ:・・・これといって、犠牲は出ず―――か・・・
永らく、血を流すことを忘れ、再びその傷みを覚えるのを、畏れておったから・・・やも知れんな。
ギ:・・・・は――――
ジ:・・・よろしかろう、これ以上意地を張り合うこともあるまい・・・。
それに、民たちに被害を及ぼさない―――と、約束されるならば、そなたらの希み通りにいたそう。
官:な―――なんと・・・それでは、閣下――――
ジ:・・・よいのじゃ。
父祖伝来の地を失おうとも、朕にとっての国家とは、“民”そのものであり、“民”こそは国の宝でもあるのじゃ―――
かの、“古えの皇”女禍様も、そのことは分かってくれるだろうて・・・
〔それまでの経緯を語り―――国家の威信などではなく、民たちのために国権を捨てることを決意したジョドー王。
しかし・・・それは、古えからこの国で崇められていたあるお方―――“古えの皇”女禍様の教示そのままであったことには、間違いはなかったことでしょう。
こうして―――建国から20,000年にわたる歴史を持つ、“列強”の一つクー・ナ国は、事実上滅びてしまったのです・・・。〕
To be continued・・・・