≪三節;ヴェネフィックの業≫
〔その一方―――こちら、あのヴェネフィックの兄妹たちは・・・〕
兵:ヨミ様―――ハイネス側の砦から、9千程度の兵が出てきた模様ですが・・・
ヨ:ナニ―――そうか。
ならば、予め設営しておいた後方の陣まで下がるぞ。
(フフ・・・)何もバカ共のように、正直に相手に当たることは・・・ない。
ョ:(フ―――フフフ・・・)さすがは兄様。
それで―――? ただ・・・後退するだけじゃ、面白くないでしょ〜う?
ヨ:(ニャリ)ふむ―――では、あとをよろしく任せたぞ。
〔ヨミは、何も屈強な軍勢を相手に、正面きって対峙するつもりは毛頭もありませんでした。
だから、クレメンスよりの出兵を知ると、すぐさま後方の陣地へと下がったのです。
でも―――・・・彼の妹であるヨキからは、『ただ普通に後退をするのでは芸がない』との進言があり、
すると、この後の策を総て妹に任せることにしたヨミは、早急に最前線の陣地を引き払い、
前(さき)に設営していた後方の陣地へと移ったのです。
それでは―――ヨキはどうやって、9千もの軍勢を相手にしたのでしょうか・・・。〕
リ:―――それっ!今よ!!
〜――わああぁっ――〜
兵:わあぁ―――っ・・・って、あれ??
兵:だ―――誰もいないじゃあないか・・・
兵:いやっ―――いたぞ・・・あそこだ!!
兵:それっ―――! ・・・って、あ、あれ??なんだ・・・こりゃ・・・
兵:すみませ〜〜―――ん!リリア様、ここに兵の姿はありませんが・・・
兵:―――代わりにこんなものが・・・
リ:(これは―――)案山子??
それじゃあ―――ここに見える人影のようにぼんやりと見えているのは・・・総てこれなワケ??
〔そう―――そこには、カ・ルマの兵士などは存在せず、まるでこちらをあざ笑うかのように点在している案山子だけ―――・・・
でも・・・それは、それだけに留まらず―――〕
リ:(それに―――先程から出ていた霧が・・・段々と濃くなっていく―――・・・)
〔この陣容を把握すべく、先陣を切って出たリリアの率いる9千ものハイネス兵―――
しかし、自分たちの砦を出ると、間もなくして乳白色の霧が発生――――
しかも、おあつらえ向きに、この陣についたときには、囮役の案山子と―――人間の兵と―――
区別が付きにくくなるくらいの、濃霧となっていたのです。
―――ところが・・・この魔性の霧は、その濃度を先程よりいっそう深くし・・・
それがある一定の濃度に達すると、次第に薄まっていき・・・・
―――すると、そこには・・・!!〕
―――サアァァ・・・
リ:(霧が晴れ―――)・・・・うっ?!!
兵:あ―――あれ?? い・・・今まで案山子だったヤツが・・・
兵:そ―――それに・・・なんなんだ? あの・・・露出が派手めの衣装の女・・・
ョ:(フッフッフッ・・・)どうやらかかったようだねぇ・・・。
そぉら―――散々と痛めつけてやりな!!
リ:(敵―――?!!)く・・・・ううっ――――ここは後退を!!
ョ:あ〜――――ッハッハ!見てやりな、あいつ等の顔色の蒼い事!!
ろくすっぽ剣戟を交えていない・・・っていうのにねぇ〜!!
リ:(くそ―――云いたいことを・・・!!)でも・・・今は後退を!!
〔前後不覚になったときに、自分たちの目の前に現れたのが“敵”だったならば―――
今のリリアの軍が、まさに それ だったのです。
浮いてしまった足は地にすら着かず、中には腰を抜かす者もおり・・・
もし―――このまま本格的な戦闘に入れば、散散たるモノとなる・・・
そう素早く判断したリリアは、ある意味正解だったのです。
でも―――逆の立場からしてみれば、ヨキとて同じこと・・・
その証拠に、その場に急に現れたヨキの率いる軍は、別段と何をするでもなく、
ただ蒼くなってクレメンス砦へと逃げ帰るハイネスの兵をあざ笑うのみ―――・・・
しかし、ある意味それは屈辱の何者でもなかったわけなのです。
確かに、戦場でその“生”を勝ち得るのは至難の業・・・
それが激戦であるならば、その者の“武勇”“知勇”が証明される唯一無二の場であるのに・・・
だったらば―――そこに“それ”は、果たして存在していたのでしょうか。
結論だけを述べるならば・・・そこには“なかった”のです。
そのことが分かっていただけに、砦に帰ってきたリリアの落ち込みようは、今までにないものだったといえるでしょう。〕
リ:――――・・・・。(はぁ・・・)
セ:リリア――――
イ:・・・やめておきなさい、セシル。
その人に下手な慰めは不必要よ。
セ:――――でも・・・
イ:このままでは戦況が悪化する―――と、いうのならば、次は私が出撃(で)ましょう。
(それにしても・・・リリアほどの腕の立つ者をしても・・・とは―――
どうやら私たちは敵を見くびっていたようだわ・・・ここは、私も肚を括らないと・・・。)
〔セシルもイセリアも、リリアの用兵ぶりは知っていました。
だからこそ―――今回、閃撃の一つも交わらせずに退いた、リリアの事を気の毒に思っていたのです。
けれど、それでは身にはならない事を知っていた三人は、なるべく前向きに、この戦線に対処し始めたのです。〕