実に、20日ぶりに地球に戻ってきたルリは―――死んでいました・・・。
しかしこれは、実に比喩に富んだ表現で、実際にルリが「死亡」したわけではなく、
自分の寝室にて、一国の主にはあるまじき格好で、「爆睡」中―――だったのです。
それでは、現在のマグレヴの、舵取りは誰が・・・?
セ:(帰ってくるなり爆睡・・・って、余程今回の作業を、根詰めしたみたいね。
でも、ルリ・・・あなたのお陰で、私達の意思は、確実に相手に伝える事が出来る・・・。
そのことの重要性を、あなたとあの方々が判らせてくれた・・・。
もし、あの時―――その重要性を認識できなかったら、今頃は・・・)
マグレヴ女王の代行を務めていたのは、ルリの片腕であるセシル=ベルフラワー=ティンジェルでした。
しかしこれは、マグレヴ女王の執務が単純だった・・・と、云うわけではなく、
云うなれば、セシルもそれだけの素養の持ち主である事が判るのです。
けれどセシルは・・・ルリから「マグレヴ女王」の座を奪う様な事はしませんでした。
それは、彼女達の間に、強い信頼関係が築かれていた・・・と、云った事だけではなく、
何よりルリは、「ある才能」に特化をしていたのです。
先程の、セシルの感想には、現在に至るまで―――過去に措いて、「ある事故」があったお陰で、痛感した出来事があった事を、物語っていたのです。
第百八話:怪我の功名
その「事故」は―――「西」と「東」の大陸が平定した後、ある一定の期間が経過した頃に、起こった出来事でした。
或る時・・・地球の衛星である月方面より、若干大きめの隕石が、
なんと・・・こともあろうに、「ソレイユ」に衝突してしまったのです。
しかも当たり処が―――ソレイユを中心に、半径160億km・・・太陽系圏を優にカヴァーできる宙域範囲の、言語翻訳機能の全壊・・・
これにより起こった弊害は、陽を見るより明らかでした。
そう・・・違う言語圏内の者同士の交流―――及び、意思の疎通が、全く滞ってしまったのです。
しかも、この原因により、一番の被害を被ってしまったのは、地球―――・・・
セ:ちょっと・・・ルリ??
あなた、一体何を云っているの・・・?
ちゃんと、判る言葉で説明をしてよ!!
ル:ど・・・どうして―――?
どうしてあなたが、そんなに怒っているの・・・セシル―――
判らない・・・私には、判らないよ―――!
ルリもセシルも、元はと云えば、違う地域の出身同士・・・だから、本来ならば、言葉が通じあわないのが、「普通」だったのです。
それが、今までは、何気なく出来ていた―――・・・
それが出来たと云うのも、ソレイユが太陽系圏に駐留していたからこそ、可能だったのです。
ですが・・・それが大きく損なわれた場合―――やはり、各地で騒動は鳴り止まなかったのです。
その一つの原因として、ソレイユでの対応の遅れ―――・・・
あらゆるトラブルの原因の解明や、補修作業に手間取ってしまった事も、一因があったのです。
そして、この一大事にジョカリーヌも思う処となり、嘗て自分の艦だった「シャンバラ」に備わっていた、言語翻訳機を再起動させ、
どうにか一部の事態でも収拾しようと試みたのですが・・・
ジ:(やはり・・・データが破損している個所が見受けられる・・・。
これでは、事態の収拾どころか、今起きている騒動が大きくなってしまう可能性もある。
こんな時に、ジィルガ姉さんがいてくれたなら・・・)
この当時―――ジィルガは、「学会」に出席中で、よもや、自分が管理下に置いている宙域で、
こんな「事故」が起こっているモノとは、夢にも思っていませんでした。
だからこその、対応の遅れ・・・と、なったわけなのですが―――
そのことだけを理由にしたとしても、混乱をしている事態が収まるわけでもなく・・・
そこで、この時ジョカリーヌは、藁にも縋る思いで、自分の艦に備わっていた「言語翻訳機」を、ゼシカに見せてみた処・・・
ジ:ゼシカ―――これなんだが・・・
ゼ:これが・・・そうなんですか―――
ちょっとバラしてみますね・・・
素人が、傍から見ても難解そうな機構程、分解をしてみれば意外に判り易い―――
それにゼシカは、その分野の才能に特化をしていました。
その装置を分解・・・部品を総て記憶し、自分の脳内で、空間的に組み立ててみて、自分なりにアレンジを施す―――
その時間に39時間を費やし、ここに、地球人の手によって創られた、「言語翻訳機」の第一号が、完成を見たのです。
けれども・・・問題はこれから―――
折角、「外骨格」は出来上がったとしても、「中味」がないままでは・・・
そうなってしまえば、コレは単なる部品の集合体―――もう少し乱暴に云ってしまえば、「ガラクタ」なのです。
その事を判っていたが故に、ジョカリーヌは頭を痛めたモノでしたが、
この時偶然にも・・・自分の国で起こっている騒動の原因を突き止める為、古巣である「シャクラディア」を訪れた人物が・・・
それこそが、今回のお話しの、もう一人の「キー・パーソン」である、ルリ=オクタヴィアヌス=ガーランドだったのです。
ル:え〜〜と・・・あの〜―――すいませ〜ん・・・。
今、お取り込み中でしょうか・・・
ジ:ああ―――ルリ、その様子だと、君の処でも被害は甚大なようだね・・・。
ル:わ―――判る! ジョカリーヌ様が、何を仰っているか、鮮明に判るわ!!
ゼ:・・・なんだか、随分と感動していらっしゃいますよね―――ルリさん。
ル:それは当然でしょう?
ここ二・三日・・・セシルの云っている事が、全く理解不能だったんだもの〜〜
だから半分、ここへと来たと云うのも―――・・・
ジ:はは・・・「逃げて」きた―――ってわけね・・・。
けれど、まあ、今回は私の所為じゃないんだけども、あたら関係者だから、当事者の一人として謝っておくよ。
ただ・・・ソレイユのクルー達も、全力で対応してくれている処だから、余り批難はして欲しくないんだ・・・。
ル:そうだったのですか・・・。
―――ところで・・・このフローは、何かのプログラム・ソースなのですか?
ジ:ルリ・・・君には判るのか―――?!!
云わば、これからが「正念場」・・・
「外骨格」である、「言語翻訳機」が出来た処に、「中味」である、「ソフト・ウエア」を詰め込む―――の、ですが・・・
これが簡単にできる事ならば、何もジョカリーヌも、頭を痛めなくてもいいのです。
つまり・・・この作業工程の、最も難解とする処とは―――
予め、組まれた「ソース」を素に、正確にプログラミングをしていく―――・・・
もし、一字一句でも間違おうモノならば、それは、本来の機能とは全く違う、別の「ナニカ」となってしまい、
それまでに費やした時間も台無しになれば、最悪の場合―――「言語翻訳」とは別の「機能」に、支障を来たしてしまう結果になる・・・
それだけに、ジョカリーヌも慎重にならざるを得なかったのです。
―――が・・・
ここで、「ハード・デバイスの申し子」と、「ソフト・デバイスの申し子」が、己に備わっていた能力に覚醒、そして出会った・・・
これこそが、「運命」―――・・・
しかもルリは、この時ジョカリーヌから提供された、「プログラム・ソース」を素に、独自のプログラム開発に成功―――
その事によって、この「事故」の騒動が収まった後、ソレイユへと帰還をしたジィルガより、二人の地球出身の女性に対し、異例とも云える「褒賞」の授与を奨励したのです。
デ:二人とも御苦労さま。
それにしても、油断をしてたわ・・・私の方も、「学会」の最中だったし、途中で抜けるわけにもいかなかった事だしねぇ〜。
でも・・・あなた達二人のお陰で、最悪の事態は回避されたわ。
コレは、そのほんの「お礼」・・・是非とも受け取って。
而して―――その時、ルリとゼシカが受け取った「褒賞」こそ、「マーヴェラス・エクセレント賞」・・・
設立されて、1億年が経過した現在でさえも、受賞をした人数は驚くほど少なく(推定100名前後)・・・
また、「地球」と云う、「辺境」として認識されている惑星で、純粋な「地球人」である女性二人が、「同時受賞」したと云う事実は、
これまでにも類を見ない、貴重な出来事だったのです。
=続く=