第十一話;見定めるべきモノ
リリアが会いたいと願っていた人物―――パライソ国の統治者・・・「大皇」。
しかし、図らずもその願望は、すぐに叶う事はありませんでした。
何しろそのお方は、あのマキでさえも一苦労だと云わさしめる「空中庭園」のどこかにいて、黙々と自分のする事に没頭しているみたいなのですから。
それに政務に取り組むのも熱心そうで、今日も早朝から全官吏を招集して、一人一人の意見に耳を傾けているのだと云う・・・
それを聞くとリリアは、立派なモノだ―――と、する半面、ならばいつ・・・武芸を磨いているのだろうと不思議に思ったのです。
それから幾許か経ち、大皇が異邦からの来訪者であるリリアに会う為、玉座の間に移動している事を知り、自分もその場所に移動を始めたのです。
こうして、玉座の間へと辿り着いたリリアは、「朝議」と云う会議が終わって、続々と入室してくるこの国の官達に、宛らにして驚いていました。
見る者達の顔が・・・全員利発そうに見え―――何よりもその多さに・・・
それにこの国家―――「パライソ国」が抱える官の数は、自分の国である「オデッセイア国」や隣国の「サライ国」の抱える官、その全員を合わせてもまだ余る余裕を見せていた・・・
自分達の国を卑下するわけではないけれど、文明の発達や市街の開発・・・更には国が抱える官―――
そのどれを取っても、自分の知る常識の範疇には収まらない・・・文字通りの「超大国」―――
そんな国を統治する「大皇」とは、一体どんな人物なのだろうか・・・それは、リリアではなくとも興味は湧いてくると云うもの・・・。
そして外交の儀礼に倣い、最敬礼をして大皇を迎えるリリア―――
すると、期待している人物が入室し、玉座に収まった事が周囲りの空気で判ったので、面を上げてみれば―――・・・
リ:・・・―――あ・・・あっ?! あなた・・・は―――??!
初めて見るはずの顔―――パライソ国の大皇の顔をその目で捉えた時、リリアはその顔が初対面ではないのではないかと感じました。
そう・・・彼方にて、目も眩まんばかりの玉座に腰を据える、大皇こそは―――・・・
ジ:私が・・・この国を治める「大皇」―――ジョカリーヌ=サガルマータ=ガラドリエルだが・・・
それにしてもあなたとは、どこかでお会いをしましたか―――
「尊厳」と「権威」そのものが、更に「威厳」と云う衣服を纏って黄金の玉座に収まっている―――
いや、そんな事よりも―――見れば見るほどに・・・あの時・・・前日、湖のある庭園の畔で出会った、この国の農民の女性によく似ている・・・
リリアが、パライソ国大皇を一目見て受けた印象は、そんなモノでした。
それにしても、よく似ている・・・しかも、同じ国で―――その統治者と同じ顔をしている民がいる事を、大皇自身は心得ているのだろうか・・・
いや、そもそも他人の空似と云うモノかもしれない―――それによく考えると、あの時よりかは今の方が遠目で、大皇の目鼻立ちがよく判らない・・・
前日のあの時は、「目と鼻の先」―――と、云ったような表現が、的確に当てはまるくらい近接していた事もあり、
この国の住人の一人でもある、あの農民の女性の印象的な笑顔などを脳裏に焼きつけていた・・・
だからリリアは、もっとよく大皇の顔を確かめる為に、玉座の側まで近づいて行きました。
それを見たパライソ国の官の一人が、自分の主君に狼藉を働く為に近付いているモノだと思い、その前にリリアを抑制させようとするのですが―――
玉座からは、大皇の無言の抑圧があり―――易々とリリアは玉座の袂に・・・
そこでリリアは、よくよく確認したのです。
やはり・・・目の錯覚などではない―――目を凝らせば凝らすほどに・・・全く同じ顔に見えてくる・・・
しかしそれは、仕方のない事ではあったのです。
リ:あ―――の・・・あんた・・・?
ジ:遠い処―――遥々とよく来てくれたね・・・。
エクステナー大陸は、オデッセイア王国・・・第一王位継承者である、リリア=デイジィ=ナグゾスサール姫。
リ:(!) ど・・・どーして? 私の名前を・・・あんたが・・・??
ジ:君の事はよく聞いているよ、侯爵であるマキや―――彼女のサーヴァントである、黒狼のラスネールから・・・ね。
リリアもよく知る人物の名を上げられた時、どうしてか初対面の時・・・マキの名をリリアが出した時に、あまり驚かなかったのか―――今にしてようやく理解に至りました。
そう―――彼らは、一括りには大皇・ジョカリーヌの大事な家臣の一人でもあったからなのです。
ではどうしてあの時に、「そうだ」と云ってくれなかったのか・・・と、そう問い掛けをしようとしたところ―――・・・
官:大皇様―――大至急、「エグゼビア」からの使者がお目通しを願っておりますが・・・いかがいたしましょうか。
ジ:―――ちょっとごめんね・・・
判った、すぐにここへ通すように伝えなさい。
もうすでに―――リリアが大皇であるジョカリーヌに拝謁していると云うのに・・・突如中途から割り込んできて、ジョカリーヌに会おうとしている者がいる・・・
その事にリリアは、少し「ムッ」と来たものでしたが、その反面では「助かった」―――ともしていたのです。
それと云うのも、会いたかった「大皇」と云う人物は、既に前日に会っており―――しかもその時の格好が、一見すると農民のようにも見えてしまっていたモノだから・・・
おまけに、爪の奥にまで土や泥を入り込ませて・・・土いじりなどに専念をしているだなんて・・・
リリアは―――大皇の振る舞いの一つ一つが、大国の・・・それも一番上に立つ者のすることではない―――とはしながらも、
他所者である自分にでさえも、気さくに・・・それでいて隔たりのなく接してくる様に、躊躇を覚えていたのです。
そんなリリアの様子を察していたのか―――或いは、この国が現在抱えている外交上の問題でもある、もっとも注目すべき処からの「急な」使者だったからなのか・・・
そこまでは定かではありませんでしたが―――いずれにしろリリアは・・・今そこで、大皇の、大皇たる所以を垣間見てしまう結果となったのです。
ジ:確か―――お前は、「エグゼビア大陸」にある「ツィクル」の者だったな。
ツ:私めのような者でも覚えおかれまして―――光栄にございます・・・大皇陛下。
この度は―――
ジ:最初に云っておく事がある・・・「云い訳」ならば聞かないぞ。
それで―――予定していた期日より、早く私に会いたいと云うのは・・・どう云った料簡からなのだ。
リリアは―――耳を、目を疑いました。
それと云うのも、つい先ほどまで交わしていた、耳触りの云い声色ではなく、いかにも威圧的で高圧的なそれ―――
しかも表情も、いつか見た・・・光が零れそうな笑顔は既にそこにはなく、厳しい眼光を備えた―――まさに大国の統治者に相応しいモノに早変わりをしていたからなのです。
この人物を・・・怒らせてしまうと、こう云う風になってしまう―――その場は、いい見本でした・・・。
それに、リリアは知らないけれど・・・今こうして大皇と対面をしている他国の外交官は、これより以前に大皇の「虎の尾を踏み」、「龍の逆鱗に触っていた」ことがあるらしく、
本来会うと指定されていた、予定の日を繰り上げてのこの日の対面に―――実はそれが、前もって条件として出されていた事が出来ないモノだとして・・・の、交渉であり、
これが尚且つ、大皇の気を逆撫でしまっているらしいのです。
ですが・・・あの温厚そうな大皇が―――これほどまでに憤慨をする道理が、一体どこにあるのか・・・
それが、あったのです―――
ツ:で・・・ですから〜〜・・・い、今の私共の国家予算では、到底―――
ジ:出来ない・・・と、云うのだな。
―――それにしても卿の召している衣装や装飾品は、どれを取っても立派なモノだな・・・まるで国が困窮しているようには見えない。
ツ:い―――いえ・・・これは・・・
ジ:誰がそこで弁解を求めた―――それに私は云ったはずだな・・・「云い訳は聞かない」と。
それに・・・「出来ない」と云うのならば仕方がない、以前云っておいたように―――お前の国からは、この国からの経済援助を全面撤退・・・
そしてツィクルの全官僚は、今を持って解雇と共に身分の剥奪―――それに伴い国外退去を命ずる。
ツ:そ―――それでは・・・私達の国の運営は誰が・・・
ジ:お前がその心配をする必要はない―――ツィクルにはこの国から・・・然るべきの人選をして、国家の存続だけは、この大皇の名において認めることとなる。
ツ:ば―――そんな・・・それではまるで・・・
ジ:お前・・・今のお前が、この私に意見が出来る立場だと思っているのか―――!!
今までお前達がしてきた事とは、ツィクルの民達から取れる物は根こそぎ取り―――その彼らが口にするモノと云えば、木の根や泥の水を啜らされていた・・・
そんな彼らとは真逆に―――官僚のお前達は、政治なども禄に見ないで山海の美味に舌鼓・・・
そんなのが果たして国か―――? 国家の根本である民達を虐げて・・・何が国家の運営なんだ―――??
だからお前の国の民達は、お前の国など見限り・・・税を払わなくなってしまったのではないのか―――?
だが・・・そこで税の捻出に困ったお前達は、交易のあるこの国に着目し、そして集ろうとしている―――・・・
ツ:(!!)そん・・・な―――総てお見通しでいらっしゃ・・・る・・・
ジ:当たり前だ! この私が・・・お前達の様な小悪党が、お前達の国でしていた事を知らないとでも思っていたのか!
いいか・・・いい機会だから、一つ為になる事を云っておいてやる・・・お前達のような者をな―――「前代未聞の恥知らず」と云うのだ!!
その怒りは天にも届き―――まるで落雷が玉座の間を直撃したかのように、大皇の怒鳴り声は響いたものでした。
そこでリリアは知るのです・・・
大皇の今の怒りは、決して「私憤」などではなく、民達の・・・それも、自分の治める国とは関係のない他国の―――民達が虐げられる様を知り、
彼らに代わって、その国の官僚の一人を叱咤していたのだ・・・と。
これが「大皇」―――これが、あの二人が君主と仰いでいる人物・・・
そして今のリリアの胸の内には、大皇・ジョカリーヌの「強さ」の源がどこにあるのか・・・朧げながらに判りつつあるのでした。
=続く=