第百六十話;駆け引き
「東の評議員」ユリアが、超一流のプロと密約を交わして戻って来た頃、
まるでその事を見図るかのように、「ディーヴァ」の「ラクシュミ」であるミリヤは、この事について、他の「ディーヴァ」達と、協議を開いているのでした。
ユリアが―――なんの目的をして、この場所に現れ、なぜ未だ以て、この場所に居続けるのか・・・
その事は、苦も無く「サラスヴァティ」のジゼルによって暴かれてしまったのです。
ジ:―――まず間違いありません。
ユリアは、シュトゥエルニダルフの暗殺を、何者かに依頼したものと思われます。
ミ:それではまだ駄目だわ―――問題は、その「何者か」によるのよ・・・。
それに第一、シュトゥエルニダルフを抹殺すると云うのは、既にユリアの口から明かされているわ。
マ:しかし―――あのシステムを破れるのは、ジゼル・・・あなたしかいないと思っていたけど・・・
ジ:―――すぐには無理です。
いくら私とて、着の身着のまま・・・先ずは、システムを破壊する「ウィルス」を構築しなくては・・・
しかし―――そう・・・ユリアがこの場所に現れた目的は、その当初から語られていた事ではあったのです。
それが・・・「ベラスケス=トロン=シュトゥエルニダルフの抹殺」―――
しかも、ユリアがその手段に出る際、ユリア自身からはそうしないだろう―――と、ミリヤは直感で感じたのです。
見るからに、「武闘派」には見えない・・・どちらかと云えば、同伴として連れていた「スターシア」の方が、そう見えた・・・
そのスターシアと見比べると、明らかにユリアは嫋であり、闘争には不釣り合いにも見えたモノだったのです。
だとしたら―――・・・今、ミリヤ達が一番に注目しておかなければならないのは、ユリアは、一体「誰」と接触をしたのか・・・
すると―――・・・
ミ:・・・ヘレン、あなた何か隠しているわね―――
ヘ:・・・さあ―――?
ミ:私達の間に、秘密を作ってはいけない―――これを云い出したのは、あなたのはずよ・・・
ヘ:―――忘れたわ、そんな昔のこと・・・
メ:ヘレン! ミリア様に対して、なんと云う口の利き方を!!
ヘ:ミリア―――「様」・・・って、アホかお前は。
いつまで、ご主人様「ごっこ」をしているのよ。
メ:ヘレン―――!!
・・・そう云えばあなた、月の裏側にある宇宙港で、私のレェラァと会ったと云っていたわね。
マ:(!)なんですって―――・・・ヘレン、それは本当?!
「月詠」で、仲間であるヘレンの思考を詠み取ったミリヤが、厳しくヘレンを追求し始めた処・・・
ヘレンは一向に動ずる様子を見せず、惚ける有様。
すると、ヘレンのその態度に腹を立てたメイベルが、ある事実を突き付ける事によって、また事態は変わってきたのです。
それに・・・そこにいる者達全員が、メイベルの「師」の事を知っていたのです。
依頼が受理されれば、標的は死を待つのみ―――「死を思え」の一語を背負い、依頼をこなしていく・・・
稀代の暗殺者「ピース・メイカー」だと云う事を・・・
だからマリアは、確認をする意味で、繰り返して聞くのですが―――
ヘ:さあ〜〜どうだったかしら―――ここんところ、妙に物忘れがひどくなっちゃってねぇ〜w
ミ:ヘレン―――
もういいわ・・・あなたは、この任務から外れて頂戴。
ヘ:(・・・。)判ったわよ―――そうやって、私を仲間外れにするといいわ。
中々真実を語ろうとはしない仲間に、ミリヤは「サヴ・リーダー」の役目として、ヘレンに今回の任務から外れるように命じました。
するとヘレンも、最初から今回の任務自体、あまり気乗りしなかったモノと見え、聞き分けの好い返事をするのですが、同時に皮肉を云いもしたのです。
そのヘレンの態度を見たマリアが、今度は腹を立て、ヘレンを責めようとするのですが―――・・・
ヘレンの思考を詠んだ時、同時に他の・・・別の何かを詠み取ったミリヤは、戦友の事を思うヘレンの複雑な心情を汲み取り、一定の理解を示しもしたのです。
・・・と、その一件は、どうにか事なきを得たようですが、ミリヤには、「もう一つ」・・・気掛かりな事があったのです。
それが・・・ユリアが、例の、「ポール」と名乗る少年を見た時の、「反応」・・・
あの反応は、明らかに、向こうが何者かを知っていたかのような、「反応」・・・
それに、「あの少年」も、ユリアに何かを呟いていたかのようだった・・・
しかし、自分の異能では、「あの少年」からは、何も感じなかった・・・
況してや、危険性の臭いの、「欠片」すらも―――・・・
それと併せて、最後に齎された奇異な情報の事を、ジゼルに訊いてみたのです。
ミ:ねえ、ジゼル・・・「春禺宮」の事なのだけど、その噂の出処と、真偽の如何は・・・?
ジ:―――「出処」は・・・「ツイッター」からですが、信憑性については、なんとも云えませんね。
マ:じゃあ―――だとすると・・・性質の悪い「デマ」とかじゃないの?
そうは云われても、完全否定までは出来ない―――それほどまでに、真に迫るユリアの表情・・・
「演技」・・・にしても、対象者を視て、他の誰に自分の反応を見せようと―――?
あの少年が、その辺にいる普通の人間ならば、そうする理由も見つからないし、
また、そうした表情を、自分達に読み取らせる必要性も、ない・・・
かと云って、その事を、あの少年自身に問い質そうとした処で、のらりくらりと逃げられてしまうだろう・・・
だがやはり、「あの少年」こそが、何かの「鍵」なのだ―――・・・
そして、その「正体」を知るのも、ユリア一人・・・と、なるならば、
やはりユリア本人に聞かなければならない―――と、そう思ったミリヤは、意を決して、ユリアの下を訪う事にしたのです。
―――が・・・
ユ:あら、ミリヤさん・・・どうかなさったのです。
ミ:はい―――先日の件で、少々・・・
何の用件で、自分の処を訪れたのかを、ユリアは素早く察しました。
しかし―――今の時期、彼女達の組織と対抗した処で、何の利益も発生しない事が判っていた為、
敢えて情報の一部は、開示しようと思っていたのです。
すると―――・・・
ミ:・・・残念ですが、私が今ここを訪れたのは、その事に関してではありません。
私が知りたいのは・・・あの「ポール」とか云う、謎の少年についての事です。
私は・・・あの少年を見て、顔色が変わったあなたの事を―――見逃してはいなかったのですよ・・・
図らずも、先手を打たれてしまった―――けれど、動揺まではしなかったユリア・・・
しかし、訊かれた事が、思いの外、重大であった為、慎重にならざるを得なかったようです。
そこで―――・・・
ようやく意を決したユリアが、その閉じた口から発したのは―――・・・
ユ:・・・わたくしは―――ここに来る以前から、「ある情報」を握っていました・・・。
ですが「それ」は、恐らくあなた達が得たモノと、そう然して変わりはないはずです・・・。
けれど・・・情報の「精度」から云えば、わたくしの握っている「情報」の方が、格段に上です。
ミ:では・・・やはり・・・「春禺」は、今や蛻の殻―――だと??
ユ:ですが・・・「それ」が「真実」ならば、今や既に、この宇宙は大変な事になっている・・・違いますか。
なればこそ、口を差し控えるのが、今は「賢明」というモノ・・・
それに・・・「真実」の総てが、「善き」に通じるか―――あなたには判っているはずです・・・。
詳しい事までは、語られはしませんでしたが、そこでミリヤは、或る重大な事実に触れてしまったのです。
それが・・・「春禺宮の主の不在に関わる疑惑」―――・・・
そもそも「春禺宮」とは、この宇宙に君臨する「天帝」の住居であり、同時に「政務所」でもあったのです。
それが、どう云うわけか・・・
時の「天帝」が、自分のやらなければいけない事を放り出して、「春禺宮」からいなくなった―――との噂が、ここ数日で、実しやかに囁かれ出していたのです。
それに・・・この事態は、単なる「家出」や「徘徊」「行方不明」では、収まりが付かなかったのです。
それが、ユリアも云っていた―――「今や既に、この宇宙は大変な事になっている・・・」
「天帝」が司っているのは、この宇宙全体の「秩序」であり、「天体の運行」そのもの・・・
そんなモノが欠ければ、「物理法則」や「生物の営み」は、途端に意味を失くし、「小悪を退治する」処の話しではなくなってしまうのです。
けれど・・・今を以て尚、自分達が無事でいられるのは、寧ろ、「その事実」が部外に漏れていない―――と、云う証拠であり、
喩え間違って、自分達が知り得たとしても、軽々しい態度に行動は取るべきではない―――と、ユリアは注意を促したのです。
それはそうと―――・・・
そよ風に靡く、草の原の上で・・・仰向けになって、気持ち良さそうに寝ている、「自称・ポール」・・・
すると、この謎の少年を見つけて―――・・・
リ:―――あっ・・・ここにいたんだ・・・。
もう、ダメだよ、家の手伝いをしないなんて・・・皆探していたのよ。
ポ:ん〜? ん〜・・・いいじゃない・・・別に―――・・・
それに、「家」って云ってるけど、僕の住んでる「家」じゃないし・・・。
リ:そーゆぅのを、「屁理屈」って云うの!
さ・・・私と一緒に来なさい―――なんだったら、私も一緒に謝ってあげるから。
「今まで」は・・・結構な「面倒臭がり屋」で、謝罪なんか真面目にしてこなかったのに―――・・・
やはり、その影響は、以前からの記憶を失くしてしまったからでしょうか・・・
一人の・・・横柄な少年と一緒に、手伝いをサボっていた事を、「播磨屋」の人達に謝ろうとするリリアの姿が・・・
(ここで注意をしておかなくてはならないのは・・・手伝いをサボっていたのは、「自称・ポール」のみで、リリアは、ちゃんと真面目に手伝っていた。)
そんな彼女の姿を見て、少年は―――・・・
ポ:・・・やはり―――君は、どこも変わらないんだね・・・
=続く=