厳重に保管され、警備されている―――アーク・ゼネキス宮殿、地下格納庫・・・
そこには、最早何も云わなくなった「人形」が一体、格納されている・・・ト、云う話なのですが、
警備の者は、そうした話は聞いてはいたのですが、誰一人として内容の確認はしてはいなかったのです。
それもこれも、女王の心中を察して―――と、云う処だったのですが・・・
今までは静かだった格納庫の内が、にわかに騒がしくなっていた・・・
警:お・・・おい―――なんだかこの内・・・「ゴソゴソ」云ってやしないか?!
警:はあぁ? な・・・なんだよ、バカヤロウ―――お、脅かすんじゃねえよ・・・
しかしそれは・・・単なる「空耳」の類ではありませんでした。
『ピーッ』
『修復完了』
『コレヨリ 起動ヲ スルトトモニ コードヲ発信シタ地点マデ 向カイマス』
『障害・障壁ヲ確認』
『コレヨリ排除イタシマス』
警:ゲッ! 気の所為なんかじゃねえ!! 何か・・・内側から出ようとしてやがる!
警:た・・・大変だ! す・・・すぐに女王陛下や、セシル様に報告しないと―――!!
こうした「地下」の異変は、すぐに女王ルリやセシルに伝えられる処となり、
二人が血相を変えて、地下へと辿り着いた頃には、既に・・・
第二百二十三話;再起動
セ:(!!)ナオミ―――・・・
ナ:『・・・・・・。』
ル:ナオミ・・・私よ?! 判らないの・・・?
ナ:『音声照合デキマセン』
『アナタハ 私ノ マスターデハ アリマセン』
『ヨッテ ソノオーダーハ 受理不能』
ル:なにを・・・なんの事を云ったいるの? ナオミ―――!
ナ:『違イマス コノ躯体ノ 製造認識番号ハ Project_No,2501』
『ヨッテ 私ハ「ナオミ」トイウ 固有名詞ハ ツイテイマセン』
地下格納庫のロックを内側から解除し、そこに佇むナオミ・・・いや、「Project_No,2501」の姿―――
しかし、完全な修復ではなかったので、見た目が・・・「人間の皮膚」とも云える「絶縁外装被膜」の所々が裂け、
金属の骨格や内臓の機器などが、露出してしまって痛々しく見えていたのです。
それでも・・・何かの目的の為に、邁進しようと動いている「彼女」がいる・・・
そうした痛ましい姿を見て、ルリは・・・セシルは・・・何も云う事が出来ず、「彼女」が彼方へと去っていくのを見届けるしかなかったのです。
その一方で、こちら・・・ガルヴァディア大陸北西部(旧カルマ国)にいる、この者達は・・・
リ:遅せぇなあ~~・・・
ルー:ほむ
なれども わっちが はっせしコードは うけたまはりべくかし
じきに きゆるかし
先程、ルーシアが何やら唱えていた存在を、今や遅しと待ち詫びているリリアの姿・・・
しかし、そうしている間に、体勢を立て直した「奴ら」が再び見え・・・
ハ:クハハハァ~~! 先程は不覚をとったが・・・見よ! 今回は「モビル・アーマー」だぞ!!
リ:うっひゃ~~「アレ」・・・って、明らかにこの人に対抗して~なんだろうけど・・・
エ:むほ! あのフォルム・・・ ムムム!
うちの作品には、メカが不足―――て、担当さんが云いよっちゃってじゃけど、アレ使えるかね~~
リ:(は・・・随分と呑気なコトを云ってらっさるよーですけど・・・)
判ってんのかよ・・・私らが置かれてる状況・・・。
ルー:がへんぜず・・・ゆえに さあるべし―――
リ:あんたも・・・随分と云えば、他人事だよなぁ~~
ルー:ほ・ほ・ほ・・・「研究者」とは かくあるべし
おのれの 「研究対象外」なれば うつたへに ゆかしからざりなりけるなり
そこは「ガラティア」とて おなじきゆえに・・・
ハ:フン―――なにをごちゃごちゃとぉ! 一気に粉砕してくれるわ!!
ト:待てハンス!
ハ:な・・・っ、どうしたトーマス!
再び「天帝の后」である、リリアの命を狙う為、現れた「源氏星」と「平家星」。
しかも好戦的な「平家星」は、今度ばかりは・・・と、云う事で、自身の身体を覆うタイプの「小型モビル・アーマー」を着装し、
先程自分達を阻んだエリーゼに対抗しようとしていたのです。
ところが・・・この危機を、自分の作品の参考とする為か、エリーゼの意識は完全に「小型モビル・アーマー」の「フォルム」に取られてしまい、一転して今度はリリア達が窮地に・・・
すると、ルーシアが口にした事に「源氏星」は反応を示し―――・・・
ト:(「ガラティア」・・・)すると、では、「死せる賢者」の一人である貴殿達が動いているのは、「ガラティアからの依頼」・・・と、云う事なのかな。
ルー:そのとひに こたえるわっちである・・・と?
ト:(・・・)フッ―――そうであった・・・な。
では、始めるとしよう・・・
「死せる賢者」達が動き始めていると云う事を、予め知っていたと見られるトーマスは、
もしルーシア達が、「仲間の依頼で動いているのなら」・・・と、寧ろそちらの方を気にしていたのです。
ところが、「そうではないかも知れない」―――と、云う事になれば、話しはまた別・・・
「そうなる前」に、片を付けておくのがベストだと思ったトーマスは―――・・・
しかし―――・・・
ルー:ほむ・・・うるせしなり―――なれど いささか おそきにしっせり
ト:(!)ぬっ?! なんだ―――・・・
彼らと彼女達の間に割って入った存在・・・
それこそは、ルーシアからのコードを受諾し、辿り着いた「殺戮マシーン」なのでした。
けれど―――・・・
リ:うわっ! こいつはひでぇ・・・よくこんなんで動いてられるな!
ルー:ほむ
なれど さにあらじ いかばかりか わっちがくわえしを―――
ハ:ヌハハハ―――! そうはさせるかぁ~!
ルー:リリアどの・・・エリーゼ・・・いかばかりか たのむぞかし
やってきたのは、見た目もひどかった為、こんなモノが動いている事自体も不思議だったのですが・・・
創ったルーシアからしてみれば、少しばかり自分が修理を行えば、支障はなくなる―――と、思っていたのです。
けれどそれでは、自分達が不利になることが判っていた為、ハンスとトーマスは、ルーシアの「修理」を、何としてでも阻止しなければならなかったのです。
ト:フッ―――「天帝の后」覚悟ぉ!
リ:こんのヤロウ~・・・私はそんなんじゃねえっての!!
私の名はリリアだ! よっく覚えときな!!
ト:それは失礼をした・・・では改めて―――リリア!貴様の命、我が細剣「ジョワイユーズ」が吸ってくれようぞ!!
ハ:ヌハハハ~! この前は不覚をとったが・・・これで互角の勝負が出来るな!デカ女!
エ:(!!)あんたぁ~~・・・ほんまこらえんけんね!!
もう、泣いちゃっても赦しちゃらんのんじゃけん!覚悟しちょきんさいよ!!
トーマスとリリア―――ハンスとエリーゼ・・・
互いに相手を迎えての対決は、ここに始まりました・・・。
ところが・・・折角「探していたモノ」が見つかったルーシアは、まだしばらく自分が創造した「作品」を眺めていたのでした。
彼女は・・・見た目もひどくなっている「作品」を修理し、リリアやエリーゼの援けとするモノだ・・・と、思われたのでしたが―――
次に、ルーシアが口にした、意外な言葉とは・・・
ルー:ほむ・・・なにものかは しらざりけるなり―――なれど よいうでをしており・・・
わっちが くませし「戦闘プログラム」を あやなしにせり―――
されども・・・「ココ」までは およばずで ありがたきなり
もし「ココ」も あやなしければ この「躯体」は むべにけれ
さすれば―――はじめむけれ・・・
ルーシアは、自分が手がけ・・・世界の構図をも変えかねない「兵器」の「プログラム」を、改竄した者を褒めたのでした。
とは云え・・・ルーシアが「Project_No,2501」を創ったのは、100万年以上の遙かな昔・・・
その当時や現在でさえも、自分が創ったモノには絶対たる自信がある―――と、豪語していただけに、
それが、こんな・・・初期の科学ですら根付いていない未開の地の、現住人如きが・・・
自分の「発明品」を改造できていたとは・・・
けれどしかし・・・ルーシアは、躯体を調べて行く内、「万が一」の時に備えていたモノまでは、改造の手は及んでいなかったモノと見え、
そこで一筋の光明を見た気がしたのでした。
それと云うのも、その「万が一」こそは、躯体そのものを「初期化」する装置―――
その装置が作動すれば、或いは・・・自分が創った「最高傑作」は・・・
しかし、そこにも実は―――ある「罠」が仕掛けられていたのでした。
=続く=