「焔帝」と「公爵」が、イコン河に架かる二つの橋梁の袂で、プロメテウス軍と戯れ合っていた頃・・・。
やはり、この河に架かる橋の一つである「ゼレック」にいた者は、プロメテウス軍と対峙していました。
しかし―――前例の二つと、明らかに違っていた事は、その橋・・・「ゼレック」では明確な戦闘は行われなかった―――いわば、「心理戦」が展開されていたのです。
それに、そんな彼ら・・・「プロメテウス軍」を相手したのは―――とある賢者の高弟にして哲学的でもある「ベェンダー」でした。
しかも彼は、「オーレク」や「ベッシュ」での戦況経過を意図的に流させ、自分もそんな「猛将」の一人であることを臭わせたのです。
すると、この策が案外功を奏し、敵軍の司令官は否が応でも慎重にならざるを得なくなり、
ただ、征く手を阻む猛将―――「らしき」者を前に、遠巻きにし・・・足踏み状態を続けていたのです。
しかし、この事態がプロメテウス軍の中枢に、芳しく映ろうはずがなく・・・早急に「進撃せよ―――」との催促が矢継ぎ早にあり、
仕方なく実力未知数である「猛将らしき者」に立ち向かおうとしたのです。
ところ一方―――・・・彼らの出方を伺っていた彼は・・・
べ:―――おや、フフフ・・・ようやく動き出しましたか・・・。
どうやら藁人形か木偶ではなかったようです、これで私の方も安心いたしました・・・
もし、あなた達が精巧な造り物であったと、私の創主様に知られれば・・・いくら私といえど厳しい懲罰は免れられませんからねぇ・・・。
彼は―――知的で・・・何より奸智に長けていました。
とは云え、それはベェンダーが過去に取りこんだ人格・・・「ビューネイ=クリード=サルガタナス」のものなのですが・・・
もう一つには、彼を創った主―――「死せる賢者」ガラティア=ヤドランカ=イグレイシャスも、その要因と云えなくもありませんでした。
このことからも判るように、実はベェンダーは、ヱリヤやエルムと同等の実力を兼ね備えているのです。
そんな事を知らない・・・また知る由もない―――プロメテウスの兵士達は、
ベェンダーの巧みな挑発に乗ってしまい、ベェンダーとはあと数mを残すところまで来た―――そう思った処に・・・
兵:うわ・・・?! うわわわ〜〜――――!!
べ:フ・フ―――かかりましたね・・・。
ですが安心しなさい、私の創主も・・・またその妹君も、喩えお前達の様な下衆であっても、一つの生命の灯が消え逝くのは良しとはしていませんから・・・。
だから―――・・・お前達は幸せであるのだよ・・・
あの高潔な方の、庇護の下にいると云っても過言ではないのだから・・・
第二十四話;Strange−Dream
「彼」が・・・彼自身の「主」と、その「妹」と称する人物から、密かに帯びていた命令が一つ―――・・・
「今後は ある事情を除き 無闇に生命を剥奪することを 禁ず」
実はこの事は、ヱリヤもエルムも云われている事なのですが・・・
彼女達は「戦闘」を―――「闘争」を好む種族であり、中々実践は難しい処がありはしたのです。
(実際、今まで幾度かの戦闘・戦端が拓かれはしましたが、その多くは負傷者であり、死者は明確にはヱリヤが出した一名でしかない。)
そこで・・・今回ベェンダーが仕掛けた策とは―――
プロメテウス軍がこちらを遠巻きにしている間に、自分の手前に半径10kmの範囲に亘って「移送方陣」を描き、
そこへ彼らを誘き寄せる―――と、云うこと・・・
そして、まんまと彼の仕掛けた罠に嵌ってしまったプロメテウス軍は、移送方陣に組まれていた効力と共に消滅―――
とは云っても、誰一人として彼らの内で、「死」などの経過によって亡くなった者などいませんでした。
ただ・・・その場から掻き消えるようにしていなくなった―――まるで・・・「神隠し」にでも遭ったように・・・
多分―――誰に話しても、信じてはもらえない・・・
プロメテウスの一軍―――総勢十数万の行方は、一瞬のうちにしてエクステナー大陸より忽然と消えてしまったのです。
では・・・彼らの行き先は―――?
気が付いた時、彼らは全員、見知らぬ場所にいました。
そこで警戒し、辺りの様子などを伺うのですが・・・
不思議な事には、そんな警戒心が薄らいでしまうほど、心穏やかになる場所―――
そんな場所で、彼らはちょっと不思議な感じのする人物と遭遇してしまったのです。
そう―――・・・このお話しでは、少しお馴染みの・・・熾緋色の髪をした、あの女性・・・
ガ:おや―――丁度いい処に来たもんだね。
ちょいとあんた達に手伝って貰いたい事があるんだ。
将:ぬっ―――そなた・・・何者だ! 我らをプロメテ・・・
ガ:ああ〜〜今そんな事はどうでもいいからさぁ―――ちょいと手伝え・・・って。
それにあんた達、無駄にガタイばかりいいんだからさぁ・・・こんな時に役に立たなくて、いつ役に立つって云うんだい。
見知らぬ場所で・・・しかも偶然に遭遇した見知らぬ女性に、ここはどう云った場所なのかをプロメテウス軍の指揮官である将は訊ねました。
しかし―――この女性は、自分達が武装しているのを理解できないでいるわけではないのに、強引にも自分が現在進行中の事を手伝わせようと勧誘してくるのでした。
そんな・・・余りにも唐突な出来事に、彼らは開いた口が塞がらなかった状態になってしまうのですが、
自分達の使命を思い出すと、毅然とした態度を取り・・・ガラティアからの要求を突っぱねようとしたのです。
ところが敵も然る者―――自分に有利な道理や理屈を並べ立てて巧く彼らを云い包めると、
本来、自分の助手や高弟にやらせていた、自身の研究のこまごまとした作業や準備などを、十数万もの急拵スタッフの手を借りて滞りなく終わらせ・・・
ガ:ほいよ―――ゴクローサン。
いやぁ〜ホントに助かったよ―――ここんとこ全く人手が足りなかったからねぇ。
いくらさぁ・・・私が万智万能だからと云って、この身一つでは出来ることに限りがあるからねぇ・・・
将:それにしましても・・・我々が手伝ったこれは一体―――
ガ:ああ、ちょいとした実験だよ。
果たしてどんな結果になるのか―――理論体系の確立など、経過も重要なんでね・・・記録も大切なんだよ。
・・・と、まあ―――こんなことを云っても・・・判るかい?あんたたちに・・・
総勢十数万もの彼らが手伝わされた事とは、何かの研究に没頭している、一見して「学者」の様である女性の・・・とある研究の一つに―――でした。
それにしても―――未だもって、その女性の研究課題が判らない・・・
ただ一つ云えた事は、研究の「結果」が、一朝一夕に得られるものではなく・・・どちらかと云えば年月のかかるモノ―――それも、10年やそこらでは判らない・・・
その事だけは、そんなに学識はない彼らにも判るモノでした。
つまりは・・・それだけ「規格外」―――「壮大」かつ「遠大」な研究をして、彼女の得ろうとしていたモノとは何か・・・そこは気掛かりにはなるのですが―――
ただ、ガラティアは―――手伝ってくれたお礼はそこそこに、自分の目の前で両手を拍つと、彼らを元いた場所に・・・
しかも、彼ら自身が何をしていたか―――つまり、「他国に侵略していた」事を含める「記憶」を抜く・・・と、云う、離れ業までやってのけたのでした。
=続く=