「新しい宇宙の契約」が完了し、再び平安を取り戻す事が出来た―――のですが・・・
その現場に立ち会った二人は、不思議と実感は湧かないでいたのでした。
リ:え〜と? それで何が変わったんだ??
マ:別に―――何か変わったと云うワケではないわよね・・・
ミ:それでいいのだ。
汝らに「そう」意識させることなく、日常を紡げて行く・・・実にも、存在の高位なる者のなせる業とは、そう云うモノなのだ。
無理をして、理解しよう―――などとは思わぬ事だな。
なんとも癪に障る態度に言葉―――しかしリリアもマリアも、所詮はそこまでで精一杯なのでした。
それと云うのも、この人物―――ミリティア=ミスティ=ミザントロープは、この二人をしてそうさせないだけの、雰囲気と存在感を醸していたのですから。
それよりも気になるのは・・・
マ:それよりも・・・どうして―――クラウドマン、あなたがこんな処に・・・
リ:あれ? 知らなかったんだ―――
こいつはさ、この私よりいい加減なヤローの部下みたいなんだ。
マ:え? それ・・・本当?
ク:この際ですからね・・・嘘を云っても始まりません―――ええ、本当です。
すると次の瞬間―――クラウドマンの頬を打つ音が・・・
マリアが反射的に、その行動に移った原理を、リリアはどことなく理解していました。
今のこの瞬間まで―――自分は騙されていた・・・
心の底からその人物に惚れ込み、信じていただけに―――・・・
しかし、それだけでは、実はモノの半分も理解できてはいなかったのです。
その衝撃の事実は、コトの推移を見守っていた、この人物からなされ・・・
ミ:おやおや―――自分の親に対して暴力を振るうとは・・・とんだ親不孝娘だな。
「親」?「娘」??
一体誰と誰の事―――・・・
けれどそれは、判り易いほどに単純なのでした。
ですが、事態の方は云うほどに単純ではなく・・・
マ:え?
リ:はい??
ク:ミリティア様―――!!
ミ:「この際ですからね・・・嘘を云っても始まりません―――」そう云ったのは汝であろう?
だから、「この際」もなにも、嘘偽りなきを申しおくべきなのではないのか。
ク:う・・・く―――・・・
ミ:だがしかし・・・そうであるかな―――
「親」と「娘」と云う関係が、「不適切」だと云うのであれば―――・・・
『ツクモ』なる存在は、「この者」と云う遺伝子を持ち、この現世に顕れた・・・
リ:(・・・)どう云う事だ?
ミ:『器物、幾歳を経て、意思を持ち神秘なるモノに昇華せん』
これが『ツクモ』の定義なのであるが―――そうなったのにも、少々こちら側の「大人の事情」と云うモノがあってな。
ガラティアの配下に、「ベェンダー」なる者がいるのは、存じておろう。
リ:え・・・あれ? 確かそいつ―――って・・・
ミ:実を云うとな、「ホムンクルス」の研究開発当初、二つの「試作型」が用意されていたのだ。
「ベェンダー」と云うのは、その内の一つの「型」・・・「男性型」を模したモノなのだ。
そして『ツクモ』―――汝も本来は、そうなるべくしてこの現世に顕れるはずだった―――のだがな・・・
そこで一つの「イレギュレーション」と云うべき、トラブルが発生してしまったのだ。
そのトラブルとは云わずもがな・・・この度発生した、「七人の魔女」の一人・・・『マーリーン』の叛乱に通ずる出来事であったならば―――
しかしながら事実―――その研究は凍結され、永年眠っておく事を余儀なくされたのでしたが、
あの当時から「ホムンクルス」の研究開発に携わっていたガラティアは、それから数億年の後―――自分一人の力で研究を再開させ、
その個体に「ベェンダー」と名付け、以降の自分の研究の補佐をさせていたのです。
では・・・『ツクモ』―――マリアは?
ミ:この娘の経緯は少々複雑でな、研究開発が凍結されて以降の個体保有者は、実は我だったのだ。
それに、ガラティアの成功例を耳にするうち、我も少しばかりの慾が出て来てな・・・
別の象での成果を挙げてみたくなったのだ。
マ:「別の象」・・・?
ミ:うむ、「ガラティアの成功例」は、どんなに理論や定義を延長させても、所詮は「人形」・・・
それに「ホムンクルス」は、媒介を経ずに、新たなる生命を創り出す法―――
なれど、個体を長年保有しておると、愛着が湧いて来ようと云うモノ・・・
そこで我は、この「個体」を、真っ当な人間にしてやろうと思ったのだ。
マ:で―――では・・・あなたが私・・・の?
ミ:否―――。
我はそこまで人間的ではない・・・しかしそれ以前に、汝は我に似た処がない。
リ:・・・と、云う事は―――マリアの土台となった人が、他にいる・・・ってことか?!
するとミリティアは、「そうだ」―――と、云わんばかりに微笑むのでした。
しかしながら、そこでの説明では、マリアが人間としてこの現世に生まれ出てくる時、使用された生殖細胞の一つが、ヨヴ・・・「クラウドマン」のモノである事は判ったのでしたが、
なぜかもう一つ―――云うなれば「母」なる者の存在は、ぼやかされたままだったのです。
その事は非常に気にはなったのでしたが・・・これも、ミリティアから出された課題の一つだと思い、敢えての言及まではしなかったのです。
しかし・・・朧げながらに判ってきたのは、マリアのクラウドマンへの想い―――・・・
そのことが「偽り」と云うより、「父子愛」に近いモノである事に気付いたマリアは・・・
マ:そんな・・・だったら私―――今までクラウドマンの事を想っていたと云うのは・・・
ミ:「残念ながらそうだ」―――と、云ってやりたいところなのだが・・・
それも一つの「恋愛感情」なのだ。
ある倫理観念に基づく者どもは、不謹慎だ―――と騒ぎ立ておるが、我はそうは思わない・・・
リ:どうしてなんだ?
ミ:そうだな、短い言葉で言い表すのは、とても難しい事だが・・・
喩えて云うならば、非常に個体数の少ない生物は、まず近親の内にて個体数を増殖させると云う・・・
それよりもまだ個体数の少ない例を挙げると、「牡」が「牝」の生殖機能を持ち、繁殖行動を繰り返すと云う・・・
まあ、そうした存在は、得てして下等生物に見られる傾向であるがな、ごく稀に「人間型」をした生命体の内にも、「両性具有」と云う、
一つの個体に「雄」も「雌」も備わっている存在がいる事は、確認が取れておるぞ。
リ:一人が・・・「男」と「女」ぁ?!
なんて云うか・・・便利と云えば、便利なんだろうけど―――・・・
マ:そうね・・・異なる性を、そう云った意味で好きになれないと云うのは・・・
すると―――ミリティアからは微笑みが漏れ出し・・・
「そうした感情に至れりと云う事は、真に汝が人間である―――と、云う証しなのだよ。」
・・・と、云ったのです。
しかし、そう―――実はこれこそが、ミリティアの研究課題・・・
第二百五十七話;『人工的に創られた生命体は、果たして・・・感情までもが創られたままであるのか』
「賢下五人」と云う、元は研究仲間の一人であったガラティアは、独自の技術により凍結されていた研究を再開させ、一応の成果を得た―――
しかしそれは、「ホムンクルス」と云う、人工生命体を創り出した「だけ」の事であり、そこには細やかな感情まではなかったのです。
そこを・・ならば―――ミリティアは、雑多な感情を取り入れた『ツクモ』なるモノを創り出そうとしたのです。
そして、ミリティアの研究は・・・就中、成功を見た―――・・・
「こうまで人間臭い感情を持てるとは・・・汝も満足であろう―――「ブリュースター」」
しかしながら、その存在は、終には彼女の口より仄めかされすらしなかったのです。
それはそうと、クラウドマンへの想いの正当性を見出したマリアは・・・
マ:ほ・・・良かったぁ〜〜やっぱり、私のあなたへの想いは、間違ってはいなかったのよね〜〜♪
ク:(・・・)これだから―――
ミリティア様、この責任どう取ってくれるおつもりなのです。
ミ:ほう・・・この我に、責任の転嫁をしようと云うのか。
だがそれは、お門違いもいいとこだぞ。
なぜなら・・・あの「小童」が、ここまでの状況を創り出したのだからな。
リ:あ・・・云われてみれば・・・
確か〜〜マリアが「研修生時代」に? 「隷属」を施したんだっけか・・・
マ:それはそうだけど〜〜・・・ここまでの状況になってしまったのは、ザッハーク様になり済ました「彼」が・・・
リ:あ゛あ゛〜〜っ!もうっ!! ややこしいったらありゃしねえ〜〜!!
大体お前ら―――二人してどーして澄ました顔してられんだよ!!
ダ:う〜〜ん、でも、ま・・・いいんじゃない?
落ち着くところに落ち着いたわけなんだし―――
ザ:是非に、非ず―――
リ:(・・・)なんっかさあ〜〜―――ムショーに暴力ってのに訴えたいんだけど・・・ダメか?!
マ:それは判らなくはないんだけど・・・もしそうなって、一方が―――バランスが崩れたりしたら・・・
リ:そうなんダヨナ〜〜そうなるんダロナ〜〜
けっどさぁ・・・この・・・なんつうんだ? 云い知れない怒り―――つうのは、どこに発散すれば?!
ミ:(・・・)良いのではないのか―――各々に一発づつ程度ならば・・・
ク:ミリティア様―――!
パ:それは・・・ちょっとどうかと―――
リ:へっえ〜〜話しが判ってくれてるぢゃないの♪
じゃ―――私からな〜〜
ミ:但し―――同じ加減で・・・な。
どちらか一方に強弱をつけてしまえば、またこの事態を早めてしまうだけだ。
もしそれでも構わぬと云うのならば、やってみるがよい。
しかし―――そんな器用な事を、普通の人間であるリリアができようはずもなく・・・
またそうした事が判っていたからこそ、ミリティアも無理な課題を出したのでした。
そしてリリアは・・・泣く泣く―――振り上げてしまっていた拳を、収めたのです。
そうした状況とは一変して―――地球では・・・
ある事態が着々と進められていたのでした・・・。
=続く=