(くら)き―――闇の牢獄に・・・四肢を拘束された、全裸の女が繋がれていました・・・

その女を、自陣に有用に働かせる為に、「外宇宙」から訪れた「サトゥルヌス」のジェルソミナは、再びこの空間に現れたのです。

 

そして・・・ユリアに―――洗脳を施そうとした、その時・・・

 

 

 

ジ:フ・フ・フ―――「ヱニグマ」よ・・・再び闇の走狗として、その真価を発揮させなさい。

  (・・・ん?)これは―――っ?!

 

 

 

手始めとして、ユリアを絡め取る事に成功し、その幾許(いくばく)かの後―――放置をしておいて絶望を味わわせたうえ、本格的に洗脳に取り掛かる・・・

ジェルソミナは、そうした・・・相手が最も嫌がる手法を得手としていましたが・・・

 

再び、ユリアを本格的に洗脳する為に訪れた際―――その・・・

 

 

その空間に囚われていたのは、ユリアではなかった事に気付かされたのです。

それでは、この空間に囚われている、「全裸の女」とは、誰―――・・・

 

この・・・(くら)き闇の牢獄に、痴態を晒けているのは・・・

自分??

 

そう思った瞬間―――自分の背後に人の気配を感じたジェルソミナは、そちらを振り向いてみると・・・

 

 

 

ジ:(!!)お―――お前・・・は!!

  どういうつもりなの・・・その姿は! なぜそんな姿をしているのか、答えなさい―――「ヱニグマ」!!

 

ア:ウフフフ・・・「そんな姿」―――とは・・・「この姿(ア ヱ カ)」も、「わたくし」を形成する一部なのですもの・・・

  その事を、今更とやかく云われる筋合いは、ないとは思うのですが・・・

  それに、この「わたくし」を、どう思うかなど、人それぞれで違います。

  「偶々(たまたま)」今回のあなたは、「わたくし」をこう云う風に捉えた・・・だから、お望みの(かたち)で、こうして現れているのです。

 

ジ:ば―――バカな・・・私は「お前」を、そんな風に望んだりはしていないわ!!

 

 

 

「サトゥルヌス」のジェルソミナが背後を振り向いてみると・・・そこにいたのは―――アヱカ??

 

かつて・・・地球の一地域を統一し、その支配階級に君臨した事のある彼女が、なぜ「この空間」に・・・?

 

アヱカは―――既に故人・・・亡くなった後、ユリアとして生まれ変わったはず・・・なのに??

なのに―――それが「現在(い ま)」、どうして「この空間」に???

 

するとアヱカからは、なぜ「現在(い ま)」、「この姿(ア ヱ カ)」をしているかの説明がありました。

そう・・・一義的には、アヱカもまた、「ヱニグマ」を形成する「一部」なのです。

 

それに、ならばどうして・・・現在の姿であるユリアを棄て、以前の姿であるアヱカとして現れたのか・・・

 

それは―――・・・

 

 

 

第二百九十六話:「ヱニグマ(誰 で も な い 者)」と云う存在

 

 

 

ア:ウフフフ・・・それこそがわたくしの思うつぼ―――

  もう忘れたのですか・・・この「わたくし」が、かつてどう呼ばれ、それがこの「わたくし」の「存在の呼称」となっていた事を・・・。

 

ジ:(・・・ッ!!)「ヱニグマ(誰でもない者)」―――っ!!

 

ア:よく・・・判っているではありませんか・・・。

  そう―――「わたくし」は「ヱニグマ(誰でもない者)」・・・

  あなたが望むと望むまいと、そのどちらでも存在しうる、「不確定な存在」・・・。

 

 

 

つまる話し、「ヱニグマ」は事態がこうなるであろうことを、(あらかじ)めガラティアより聞かされており、自分に与えられた役割を果たす為に、

現在の姿であるユリアを囮として使用し―――自分を調略する為に現れるであろう「三候」の一人を逆に絡め取り、

現在、エリスがどう云った行動(アクション)を起こすかを探ろうとしていたのです。

 

そして、そこで網にかかったのは―――「三候」の筆頭と見られている、「サトゥルヌス」のジェルソミナだった・・・

 

それにジェルソミナは、自分が調略をしようとしていた存在が、どう云った存在であったかを知っていたにも拘らず、「それ」を復唱してしまった・・・

 

そう・・・罠にかけようと思って、逆に罠にかかってしまったのは―――「自分」・・・

 

そして、再び「この空間」に現れた際、拘束されて痴態を晒している「自分」の姿の幻を見せられ・・・

 

 

 

ジ:はぐうぅっ・・・ぐはあぁ〜〜っ!!

  こっ〜〜これはあぁ〜〜っ!!?

 

ア:あなたには、少々痛い目を見て貰おうかと、存じ上げます・・・

 

ジ:(!!)な―――なに・・・? それは・・・?それはあぁ〜〜っ?!

 

 

 

本来ならば・・・ユリアに対して施そうと思っていた時分の術を―――逆手に使われてしまい、今では自分が逆の立場に・・・

 

こちらの宇宙では、強力過ぎて扱える者が、そうはいない―――「ヴェネフィック」の術・・・

(とは云え、過去のお話し「XANADO」では、この術を扱っていた兄妹がいたが、この術の本質を垣間見る事もなく、敢え無くして死んでしまっている。)

 

そんな術を、逆手に捉える者など、そうはいない―――と、多寡を括っていたら、アヱカの姿がまた微妙に変化を来たしたのです。

 

 

そう・・・アヱカも―――ユリアも―――そして「ヱニグマ」も・・・

一様にして、燃え盛る焔「のような」、「真紅の眸」をしていましたが・・・実際にその眸は、「焔」ではありませんでした・・・

が―――・・・

その時のアヱカの「眸」とは、まさしく「焔」そのモノだったのです。

 

そして、その「眸」を見た途端、ジェルソミナは「或る魔神」の事を思い出していたのです。

 

 

 

ジ:そっ・・・その「眸」―――っ・・・!!

  ま・・・まさか・・・? や・やめっ―――やめなさい・・・やめてえぇ〜〜っ!!

  あ・あ・・・あなた・・・これから、このわたくしに何をしようとしているのか―――判って・・・

 

ア:「いるから」こそ、こうしてあなたの前にいる・・・そうは思いませんか―――

 

ジ:な・・・ならばなぜ―――・・・

 

ア:「エリスであるジョカリーヌと行動を共にしないのか」・・・

  残念ながら、わたくしが「共有性(アレロパシー)」を持ったのは、ジョカリーヌであってエリスではありません。

 

  それに・・・この「眸」は、わたくしから「或る男」に委譲しておいたモノ・・・それを、返してもらったに過ぎないのです。

 

ジ:(「サウロン」!!?)

  判らぬ・・・っ―――ならばどうして・・・一度わたくし達に敗れた事のある「勇者」の眸を・・・お前がっ??!

 

 

 

ここで―――「第二百九十二話;『歌劇・歌姫』」のストーリーを思い出して頂きたい・・・

あの物語では、紆余曲折あったものの、「悪意ある者」・・・つまりエリスに立ち向かい、善戦しながらも敗れた「救世の勇者」の姿が描かれているのですが、

その「救世の勇者」こそが、あの「サウロン」―――だったのです。

 

それに、現実的にも「サウロン」は、一度「エリス」に敗れており、雌伏の時を経て、また再び・・・

「五人の歌姫」と「賢下五人」と協力を連携させ、どうにか撃退出来てはいたのですが―――・・・

 

ならばなぜ―――「XANADO」では、「魔皇」等と云う呼称で、敵として現れていたのか・・・

 

そこで、こう解釈は出来ないでしょうか―――・・・

 

「賢下五人」の一人であり、「哲学士(フィロゾフィア)」であるガラティアは、かつての苦い経験から「外宇宙」からの侵攻に備え、ある「シュミレーション・プログラム」を発動・・・

それは、仲間内でも、本当の敵・味方に分かれ、本当に争い合う事で、「外宇宙」からの勢力に抗うだけの武力を有しようとした・・・のではないか。

 

それは確かに、辛辣に過ぎる部分も、多少はあったかもしれない―――・・・

 

けれど・・・

(なま)(ぬる)い」ということは・・・(イコール)「滅亡」に繋がる・・・

 

現在を生くる者達に、過去にあった「外宇宙」からの侵略の事など、知るべくもない・・・

また、そうした苦い経験があったからこそ、「賢下五人」の一人で「話術師(ロア ・ マスター)」であるミリティアは、

この宇宙を「開拓」し、様々な争い(トラブル)の「調停」を請け負う「フロンティア」を設立した・・・

 

つまり―――「ヱニグマ」も、「ブラック・ウィドウ」も、「アヱカ」も、「ユリア」も、「ジィルガ」も・・・

そして―――かつて、あの顕現・・・「无楯」を持っていた「魔皇(サウロン)」も、

総てはガラティアが組んだ「シュミレーション・プログラム」の、一環としてあったならば・・・?

(ここで予断ではあるのだが、この「シュミレーション・プログラム」の発動時に、予期せぬ出来事・・・

「ジルコニア強奪事件」が発覚し、ガラティアは「けじめ」のために、「とある場所」に蟄居する羽目となった。)

(また、この出来事を「予期せぬ出来事」としたのも、凝似人格であるとされる「サウロン」が暴走・・・

またその手引きは「ヱニグマ」が導いたのではあるが、厳重な管理をしておかなければならない者を簡単に奪われてしまったのは、

「賢下五人」達にとっても痛恨事であった為、斯様な措置が取られたモノと思われる。)

 

それを証拠に、アヱカの口から「あの言葉」が紡ぎだされ・・・

 

 

 

ア:(・・・)

  《――〜一つの指輪は 総てを統べ〜――》

  《――〜一つの指輪は 総てを見つけ〜――》

  《――〜一つの指輪は 総てを捕らえ〜――》

 

ジ:(!!)その詠唱・・・なぜ―――なぜお前が、「无楯」発動の呪を・・・?!

 

ア:ウフフフ・・・そのカラクリは、ゆっくりと・・・わたくしの内にて、よく考えて下さい・・・

  《――〜暗闇の内に 繋ぎ留める〜――》

 

 

 

その言葉こそ、エリスとその一党の、能力を半減させた「勇者(サウロン)」の一矢・・・

しかも、使用した時の状況と云うのも、止めの一撃を免れる為に放ったモノであり、

結果―――その事が功を奏し、どうにか虎口を脱することができた・・・

 

所詮・・・戦闘力に特化しているとは云え、「勇者」は一人・・・

そこは敗れて必然だったのかもしれないし、「勇者」にエリス達の撃退を依頼した「賢下五人」の方も、エリス達を甘く見ていた嫌いもあった・・・

 

そこで、「勇者」が敗れた経緯を検証し、今度は「勇者」側も「仲間(パーティ)」を組んで、エリス達と対抗・・・そして撃退に成功したのが真実だったのです。

(ちなみに・・・「仲間(パーティ)」の構成は―――と云うと、実際にエリス達と戦闘を交える「勇者」「拳帝神皇(ホ  プ  リ  タ  イ)」「破壊神(ジャグワー ・ ノート)」・・・

この三人を後方支援する「五人の歌姫」・・・そして裏方役である「話術師(ロア ・ マスター)」「哲学士(フィロゾフィア)」「発明王(インベンター)」・・・

なのではあるが・・・この構成を見ての様に、回復役がおらず、一発勝負の「特攻型」だった事が伺える。

なので―――「賢下五人」の二人が参戦したとはいえ、「痛み分けの引き分け」に終わったと云うのは、ある意味僥倖ではなかっただろうか。)

 

ところが―――かの言葉を、撤退時にではなく、アヱカの様に攻撃時に使用したなら・・・?

 

そこは最早、説明無用―――

アヱカからの、その言葉が、云い終らないうちに・・・

「サルトゥルヌス」のジェルソミナは、その空間から消滅してしまった―――・・・

 

その事は、ジェルソミナが逃走を計った―――と云うのではなく・・・

云わば「存在の喪失(ロ ス ト)」・・・

しかしながら、本当に喪失(ロ ス ト)してしまったのか―――と云うと・・・

 

 

 

ジ:ウフフフ・・・しばらくは、あなたのこの姿―――借り受けますわね。

  (そしてジョカリーヌ・・・待っていて下さい―――あなたは必ずや・・・)

 

 

 

なんと―――その空間には、「サトゥルヌス」のジェルソミナが???

いえ―――しかしそれは・・・ジェルソミナを取り込んだ、アヱカ・・・「ヱニグマ」だったのです。

 

そう―――既にジェルソミナの存在は、「ヱニグマ」の一部となってしまった・・・

 

そうした部分を考えると、あの言葉はそこまでの威力を持ち、「勇者」一人でも立ち向かえる事が出来ていたのです。

けれど、この言葉の真の効力を知っていた「勇者」は、この言葉の使いどころを見誤らなかった・・・

だからこその、苦戦を強いられてしまったのです。

 

しかし・・・「ヱニグマ」は、「勇者」ではない―――

彼女は・・・「誰でもない者」―――

 

だからこそ存在を多様化させ、存在し続ける事が出来るのです・・・。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと