「ふとしたこと」・・・以前まで、同じ集団、同じ組織に属していた同志・仲間に襲われたことで、発覚してしまった、少女・しのの正体とは、「抜け忍」でした。
・・・と、云う事は、しのがリリアに助けられた経緯で、数人に暴行を受けそうになっていたと云うのは、
全く同じ集団が、抜け忍であるしのを、「里」の「掟」に従い、抹殺をしようとしていたのではないか―――と、云う事が、判ってきたのです。
とは云っても、リリアには、そんな事情は知る由もないのですが、彼女の性格上、「善く」も「悪く」もあるところは、
困った人を見かけて、そのままにしていられなくなる―――
少し意地悪な言い方をすると、目の前で騒動が起きそうになるのを見ていると、黙って見ていられなくなる―――
面倒見が良くて、「世話焼き」をする一方で、腕が疼いて堪らなくなる、「騒動屋」でもある・・・
こんなリリアのことを、旧くから知るソフィアなどに云わせると、該当するのは「後者」なのだそうで―――・・・
ともあれ、近くのせせらぎにて、水を汲むだけ―――だと云いながら、中々戻ってこないリリア達に、思う処となった市子と蓮也は、
様子を伺おうと、その場所まで行ってみたところ―――・・・
蓮:リリア殿、何をされて―――ぬっ?!この者達は・・・
源:ち・・・またもや邪魔が入りおったか。
蓮:お主ら―――「九魔」?! しかし・・・なぜ―――
まさしくそこは、「必殺の地」―――
リリアとしのを取り巻く忍は、数十人を下らず、彼らを統率する、「源蔵」なる者の号令が一度下れば、
そこには、哀れな女の屍が二つ・・・転がるのみだったのに、
しかしここで、リリアの仲間である市子と蓮也が合流すれば、事情も少しばかり変わろうと云うもの、
状況は、更に混濁しつつあったのです。
けれども、市子だけは冷静を保ち、状況を分析しながらも、更なる確信に辿り着いたのです。
市:なるほど、やはりあなたは「忍」―――
それも、「九魔」の「抜け忍」と、云う事でしたか。
「一番最悪の事態に、間の悪い相手を呼び込んでしまった・・・。」
しのは、そう思うしか有りませんでした。
それと云うのも、自分と出身を同じくする二人からは、これまでにも幾度となく、何かにつけて嫌疑をかけられ、怪しい眼差しで見られていたのだから。
しかも、ここへきて、里の者達が、自分の抹殺を図るべく、待ち受けている―――
しのは、もう・・・覚悟を決めるしか、ありませんでした―――
ところが・・・
市:あなたの事情は、よく判りました。
それでは、これより助太刀いたします。
リ:いっやあ―――助かったぜ、市子!
やれやれ、一時はどーなることかと・・・
市:いえ、お構いなく。
それに、この者達には、少々聞きたいこともございますので。
リ:は? 「聞きたいこと」??
蓮:然様―――確か、お主らの頭目の名は、昨今この地で騒がれている者の名と、同じではあるまいか・・・。
リ:なんだと?! ―――するってと・・・
リリアとしのを取り巻いている「忍」。
そして、過去にも何度か、市子や蓮也の前に立ちはだかり、阻もうとしていた者達・・・
それが、「九魔」。
その畏るべき忍軍の頭目として収まっていたのが、ここ昨今、サライ・オデッセイア共和国界隈を騒がしている、件の「噂の人物」だと、市子と蓮也は睨んでいたのです。
而して、その人物とは、やはり―――・・・
源:フ―――・・・我らが故郷の出身が二人もいるともなれば、流石に誤魔化しは利かぬか・・・
だが、一つ云っておこう、我らが御館様は、先頃他界なされた・・・。
そして、その跡目を継ぐ段になって、ある問題が生じたのだ―――
市:まさか―――・・・
第四十四話:加東紫乃
源:我らが御館、「加東段蔵」の血を受け継ぎし娘―――「加東紫乃」!
貴様は、これから己にのしかかる名の重圧に負け、里を抜け出しおったのだ!!
そのような恥知らず、本家嫡流では、あってはならぬ事―――・・・なればこそ、貴様はここで死なねばならぬのだ!!
やはり、しのは―――ここ昨今、サライ・オデッセイア共和国の巷で騒がれている、「加東段蔵」の娘・・・
そのことを、市子と蓮也は、或る程度推測していたからか、あまり驚いてはいませんでした。
しかし―――自分達が知っていたのは、「極悪人」としての段蔵の姿であり、それが「自然死」していたことの方が驚きでした。
『かの大罪人は、衆目の中にて、公開処刑された―――』
これが通説として、流布されていただけに・・・
いや―――それよりも・・・
ならば、ここ昨今の、あの「噂」・・・
『限りなく他人の姿を模しながらも、実体ではない―――』
つまり、段蔵に、優るとも劣らぬ術を行使していたのは、実は―――・・・
ところで、彼らの故郷の事情也などを知らないリリアは、大仰に驚く―――モノかと思えば・・・
リ:は! ンな事より、ンな詰まらんことで「人を殺す」〜だのって・・・小さい奴だなぁ、お前。
し:(え?) ・・・あの―――
リ:ん? どした―――
し:いえ、その・・・あたし―――
リ:自分の事情を知られたくなかったんだから、仕方がないだろよ。
そーゆー私も、同じことをしたことがあるんだしさ♪ だよなぁ?市子に蓮也。
市:云われてみれば、そんな事がありましたね。
あなたは、今でこそ、そんな立ち居振る舞いをしてはいますが・・・
リ:産まれたのが、偶々、どこぞかの国のお姫様〜だったってかw
だからこの子も、偶々、そうした家柄に産まれてきただけに過ぎない。
子供にはさ―――産まれ出てくる家柄なんて、択べやしないのさ・・・。
お前らが云ってることはな、所詮そんな・・・けちな料簡なんだよ!
このリリアの言葉に、意外に驚かされたのは、しのの方でした。
それにリリアは、封建的なこの社会制度に、いち早く疑問を持ち始め、居城だった「ノーブリック城」に居る時以外では、庶民達と同様に振舞っていたのです。
しかもそのことは、リリアの仲間である市子に蓮也は感じていたことではあったのですが、中々その思想を、行動に移すまでには時間が必要だったようです。
つまりこの時点で、リリアは、この「時代」にして、この「大陸」の「先駆者」であると云えたのです。
それにしても、黙っていられなかったのが、自分達の行っている「正義」を、激しく否定された人物・・・
源:散々、云いたいことを云ってくれたようだが―――今、貴様達が置かれている立場を、全く弁えていないようだな!
まあいい・・・どの道、その女の逃亡に手を貸すと云うなら、貴様達も、その女同様、この場にて始末をつけてくれる!
そして・・・このオレが、新たに「段蔵」の名を継ぐのだ!!
なぜ、「源蔵」なる人物が、リリア達の応援に駆けつけてきた、市子に蓮也が現れても、「撤退」の道を歩まず、しのの命を狙う事に拘泥し続けていたのか。
云うならくは―――正統なる加東の血筋を引く者を斃した暁には、自分がその権利を得る事が出来る・・・と、吹聴されたからではないでしょうか。
本来ならば、「正しき血を引く」事こそが、その「血統」「家柄」を護っていく術ではあるのですが・・・
また一つには、「弱者は、強者に淘汰されて然るべき」―――も、そうした「流派」や「道統」を絶やさぬ術であることには変わりないのです。
ならば、しのも―――加東紫乃も、そうした「運命」に呑まれるべき、存在だったのでしょうか・・・。
=続く=