国民を虐待する自分の国の兵士を、自らの手で制裁を加えることで、どうにか町の人間達の溜飲を下げさせることに努めた、トロイア国の姫将軍。
そんな有り様を、その目に収めたしのとたまもは、「この人物ならば・・・」と、思う処となり、
ある事を聞く為、この人物―――イリス=グゥワイゼナヴ=アディエマスが、一人となる時を見計らったのです。
そして、それは思わずも早く巡ってきました。
イリスが、この騒動を終着させて、露店街から離れようとした処、「この機を逸してはならない」と、思ったしのは、彼女の後を尾けたのです。
そして、イリスは大路をしばらく直進した後、なぜか・・・人通りの少ないとみられる、少し薄暗い路地に入る為の辻角を曲がったので、
「これでは見失ってしまう」と、感じたしのとたまもは、すぐにイリスの後を追った処―――・・・
イ:―――なにか、私に用件ですか・・・
し:わっ、しまっ―――・・・
いや、あの〜〜ちょっと道に迷っちゃって・・・
しのとたまもが、イリスの後を追う為、その辻角を曲ったすぐの処で、自分達を待ち受けていると見られた、イリスと対面をしてしまったのです。
しかも、彼女からは、何かしらの疑いを持たれている様子に・・・しのは、苦し紛れの言い訳をしてみるのですが、
どうやらイリスには、程度の云い訳だと、すぐに判ってしまったようで―――・・・
イ:それはどうでしょう。
先程から、私の背後に視線と云うモノを感じていましたから・・・。
それに、もしや―――と、思い、ここまで誘ってみれば、案の定として、あなた達が私の前に現れた・・・
し:い、いやぁ〜〜だから・・・これは偶然なんです―――って・・・
た:・・・無駄じゃ、しのよ。
どうやら、この者には判っておるらしい。
し:たまちゃん・・・
た:のう、御仁。
ぬしの後を尾けた事は認め、またその事が気に障られたのであれば、ここにこうして謝ろう・・・。
しかし―――じゃ・・・この国に措いて、潔しのぬしを見込んで、ちと聞きたい事があるのじゃが・・・どうであろう。
イ:この私が、「潔し」―――?
フ・フ・・・何かの間違いではありませんか。
た:それが謙遜と云うものじゃよ。
先程よりの、わしらの視線を感じていたのであれば、あの不逞の輩を成敗した行い―――あれは、どう説明するものかの。
イ:あれは・・・当然のことをしたまでのこと。
何も、褒められる所以もありません。
た:カッカッカ―――w
やはりのう・・・わしの見立ての通りじゃて、善し善し♪
そう・・・イリスは、この町での出来事の始終を、何者かによって視られている事を、背中で犇と感じていました。
それに、自分の国の兵士が、ここ最近、各町村で起こしている住民とのトラブルを、解消する為に奔走している―――
そんな当然のことを、殊更、褒められるわけにはいかないともしていたのです。
そんな、イリスの矜持とも取れた事を聞いたたまもは、この人物になら、今の自分達の事情を話してもいいだろうと判断し、
腰を据えての折半をする為、場所を改めようと申し出てみたところ、イリスも実は、別の所用にてこの町を訪れていたのであり、
先ずは、自分の所用を優先させて、そのあとで、しの達の用件を聞くことにしたのです。
第六十三話;引き寄せ合う運命
それと同刻―――リリア達もまた、同じ町に入った処でした。
するとすぐに、この町の違和を感じ取った市子が―――・・・
市:(!)血の臭いがしますね・・・
リ:相変わらず、鋭いなぁ―――市子は・・・
蓮:それにしては、殺気立ってはおりませぬ・・・或いは、騒動は既に鎮まったのでは?
座頭の市子は、普段から目を塞いでいる事もあり、他の五感が研ぎ澄まされていました。
取り分け、「聴覚」や「嗅覚」などは、リリアや蓮也よりも敏感だったと見られ、
この町へと入ったと同時に、あの流血沙汰を嗅ぎつけてしまったのです。
そして、その事件のあった現場に着いた時、確かにこの場で、そう云った流血沙汰があった・・・と、当事者の一人である露店の店主から聞き、
程なくして、この騒動を解決した人物が、当トロイア国の姫将軍である、イリスである事を知らされたのです。
すると、その事実を聞いたリリアの、悪い虫が騒ぎ出し・・・
リ:ほうほうほう―――そんな奴がいるのか? いやぁ〜なんだか、こいつは嬉しくなってきちゃったなぁ〜♪
こんなにもいい事が、立て続けに起こっちゃうなんて―――さ♪
これも偏に、私が日頃、善い子ちゃんしてたからだよな〜♪
で・・・さあ―――今、そいつはどこにいるんだ?
リリアが、「善い子にしていた」―――と、云う部分に、敢えて市子はツッコミを入れませんでしたが、
確かに、ここ最近のリリアは、運が付いてきていると、感じられたのです。
予期さえしなかった、「南の評議員」への就任―――
新たなる好敵手の、連続しての出現―――
「偶然」と云う言葉で片付けるにしては、余りにも高い確率性であることに、もしかしたら、「今」がリリアの「天佑」の時期ではないかと、市子は思っていたのです。
それはそうと、露店の店主からの話しによると、そのイリスなる人物も、元々はこの町に所用があって訪れており、
偶々、今回の騒動を目撃してしまい、見て見ぬふりも出来なかった・・・
それに、この国の王族が、「辺境」で片付けられても、そう可笑しくない町を、度々訪れていると云うのも、気掛かりとなってくる・・・
ならば―――この町には、一体何の魅力があるのか・・・
「イリス」と云う王族の一人が、わざわざ足を運ぶ道理があるとするだけの存在が、ここにはあるのか―――
果たして―――・・・
イリスとしのとたまもは、イリスが会いたいとしていた人物が、居を構えている場所に着き、その住居の入口の前に佇んでいました。
そしてそれまでに、しのとたまもは、イリスから、イリスが会おうとしていた人物の人となりなどを聞かされていたのです。
今迄に―――恐らく、その人物に出会わず、世の道理などを説かれなければ、イリス自身も変わらなかっただろう・・・
それこそは衝撃、今までに、イリス自身が修めてきた学も、或る意味では正しいと説かれていても、
その「夫婦」からの教えに感動すら覚えてしまった時、イリスの行動は、先ず民達の為に在るべき事だと、至るようになったのです。
そして、その人物が住む家に入る為、扉を叩いたところ―――
イ:失礼します―――先生・・・
イリスでございます、先生にまた―――・・・
し:(?)どうしました、イリスさん。
イリス達三人が、その人物の住まいに入った時、一組の夫婦の変わり様を、目の当たりにしてしまいました。
病気療養中なのか―――妻が、床に伏せ、夫が、それを看ている・・・
夫婦とイリスの関係を、あまり良く知らないしのが一見しても、その程度の事は理解できました。
けれどもたまもは、或る事に通じていたからか、妻の身に、何があったのかが判ったようでした。
それでもイリスは、僅か数日前までは、病床の佳人の、元気な姿を拝観していただけに、俄かには信じ難かったのです。
だから思わず―――病床の佳人の名を、叫んでしまったのです。
イ:・・・婀娜那さん?
先生―――タケル先生! 奥様である婀娜那さんは・・・
た:取り乱してはならぬ、それに、最早、事切れておる―――
その証拠に、この屍を狙うてか、邪なる者共が、うようよと集ってきておるわ。
イ:そんな?? ―――バカなことって・・・
た:〜に、しても・・・そなたに陰陽の心得があるとはの―――あと、いかばかりか措置が遅かりしかば、この者は冥府からの使いによって、連れ去られていた事であろう。
ならば・・・『オン・ダキニ・ギャチ・ギャカニエイ・ソワカ』―――
見かけの上では、女児の姿をしているたまもは、「鬼道」と呼ばれるモノの内、「ダキニ道」に通じており、また、「陰陽術」にも長じていました。
だから、床に伏せている妻が、何らかの原因によって、既に死んでしまっている事を知る事が出来たのです。
それに・・・人の死亡により、肉体や魂を貪ろうとしている、邪霊が集ってきていた事も見えていたのです。
そこでたまもは、更なる措置―――夫が、妻の亡骸を護るため、施していた結界を強くしながらも、
現在、ここに集ってきている邪霊たちを一掃する為、自らが得手としている「ダキニ道」を行使したのです。
それにしても―――・・・果たして、この度その死亡が確認された存在・・・
本当に、そうだったのでしょうか。
=続く=