この世に、正統な継承者は一人―――
けれど、この当時、そうした資格があったのは、「晄剣」を出したイリスと、「晄楯」を出したリリアの二人。
だから、二人の間に、緋刀・貮漣を巡る争いが起きても、なんら不思議ではありませんでした。
なにより、リリアにしてみれば、会いたかった「強い奴」(=イリス)を見つける事が出来て、すぐにでも勝負をしてみたかったのですから。
けれど・・・今となってしまっては、貮漣はイリスの手の内にあるわけであり、リリアは徒手空拳にて、立ち向かわなければ、ならなくなるわけなのですが・・・
リ:あぁ〜あ―――なんか、ヤル気失せた。
イ:なんだかスミマセン・・・あの、これお返しします。
リ:・・・やるよ。
どーせそいつは、私が持っていても、何の変哲のないただの棒きれだ。
それに―――あんたみたいなのが持っていてやれば、「いざ」って時に役に立つもんなぁ。
イ:え・・・でも、これは―――
リ:あ゛〜っ! もう、面倒くせぇな! やるっつったらやるってんだよ!
おっ、いい事思いついた、だったらさ、それやる代わりに、あんたが腰に下げてるもんをくれよ。
だったらいいだろ〜? な?な?!!
しかし、今の時点で、貮漣が自分の役には立たず、それでも貮漣は、リリアを構成していくのに、欠かせない「アーティファクト」である・・・
と云う、重大な意識が欠落していたからか、リリア自身からそうした交換条件を引き合いに出してきたのです。
それに、この剣を所持する者ならば、世に覇を唱えることすら不可能ではない―――
それだけの価値と能力を秘めた「アーティファクト」を、こうも安易に手放す事が出来ると云うのは、偏に、そうした意識の希薄さが成せれる業ではなかったでしょうか。
こうして、前の所有者であったタケルの目の前で、こんなにまで安廉な取引が、公然となされようとしている・・・
果たしてこれは、赦されるべき行為だったのでしょうか。
すると―――・・・
タ:ほぉう・・・敢えて「離」を択びまするか。
いや、それもまた大いに結構、イリス様、リリア殿からの申し出を、引き受けなされよ。
イ:え・・・でも、先生―――
イリスにしてみれば、この時のタケルからの言動が、不思議でなりませんでした。
「世に宿められしモノは、万象須らく己の身に降りかかるを知るべし」―――
運命や宿命は、既に決まっているけれども、そこからどう切り拓いて行くかは、自分自身の技量次第・・・
そして、どんな過程を通ったとしても、結果は落ち着くところに落ち着くモノである。
そう、タケルから教わった事もあり、ならぱ今、リリアからの申し入れを受けて、貮漣を譲り受けてしまったら、
あの時の彼の弁とは何だったのか・・・そう思いたくもなってしまうのです。
しかし―――結局の処・・・
リ:へっへ〜♪ ありがとうな。
やっぱ―――不確かなもんより、こっちの方が落ち着くわ。
自分が所持していた、普通の鉄の剣と交換し、軽率とも思える態度を取り続けているリリアの姿を見て、少しイリスは残念に思っていました。
それと云うのも、以前から、タケルや婀娜那からは、自分の身に降りかかろうとする災いよりも、率先して弱き者達のために立ち上がる姿を聞かされていただけに、
だから―――当の本人が、このような人物像だとは、とても思えなかったのです。
それよりも、話題は一変し―――
し:それよりも・・・どうして、リリアさん達がこんな処へ?
リ:そいつはまた、随分なご挨拶だな、しの。
ま・・・一つには、私は「評議員」て云う、大層な御身分だしぃ〜?w
未だ、一つには成りきれていない地域のことを、心配してやるのは当の然―――だろ?
蓮:(・・・。)
市:(・・・。)
た:ウソ吐けぇ〜w お主は、どちらかと申せば、騒動を好む方であろうw
リ:ン〜だとぅ・・・クヌヤロ―――!
た:痛ったあ〜! おい!コラ!何も足蹴にせんでもよかろう!
リ:は・はぁ〜ん?w 私がなんかやったかぁ〜?w
た:うにゅれ〜〜この、不心得者にして罰中りめが! こうしてくれる―――こうしてくれる!
リ:あっ! やりやがったなあ〜?この、乃亜擬きめ!!
リリアから「乃亜擬き」と呼ばれた、たまもからの「ツッコミ」に、反論できないまでも手が出てしまったとあっては、
どうやらリリアにしてみれば、あまり触れられて欲しくなかった「本音」だったようで、そこで苦し紛れの悪口になってしまったようです。
しかも、たまもの方にしても、その悪口には異議があったらしく、珍しくそこでは冷静さを欠き、リリアと激しい丁々発止を繰り広げてしまったのです。
そこを、あまり良くない状況だと判断した仲間達は、強制的に二人を引き剥がし、どうにか事莫きを得たのです。
しかし・・・ここで、しのが一番気にしていた事が―――すると、そうした彼女の意を汲んでなのか、市子が・・・
し:・・・・・・。
市:―――何か、私に云って貰いたい事でもあるのですか。
し:え? いや・・・その・・・あの・・・
市:なにもそう心配せずとも。
確かに、この町に入った時、あなたの気配は感じられませんでしたが、あの集落で発動した術の正体を、まだあの人には打ち明けてはいません。
それに・・・どうしてそうしなかったか―――は、そうしてしまえば、どうなるか判っていた事ですから・・・。
エグゼビア大陸のトロイア国に入って最初の集落に立ち寄った時、まさかのちに、こうした事態になるモノだとは想定していなかった為、
その集落で発動させた紫電の術の事が、好戦的な人に知られでもしたら、どうしたものか―――と、しのは内心、肝を冷やしていました。
しかし市子は、そうした事をしてしまうと、どんな事態になるか、或る程度予測が付いていたものと見え、敢えてそうしない―――と、しのに誓約さえしたのです。
その事に、しのは喜んだのですが・・・半ば、痛み分けにされてしまった、当事者二人は面白かろうはずもなく・・・。
タ:まあ・・・仲がよろしいのは、大変結構なことではございますかな。
リ:ちょっ・・・冗談よしてくれよ! なんで私が、こんなヤツと〜〜
た:ふんっ! その弁、そのままお主に、熨斗をつけて返してやるぞぃ。
イ:あの・・・いい加減にして貰えませんか。
タ:ハッハッハ―――何もワシは、冗談で申し上げているのではございませぬ。
「戦」や「喧嘩」は、或る意味、「相手」がいてこそ成り立つのですから。
リ:(!)・・・すまない。
た:・・・悪い事をしたな。
タ:ハッハッハ―――果てさて、誰に詫びを入れているのか・・・敢えてそこまでは伺いますまい。
それよりも―――
リ:ああ、そうだな―――取り敢えず、ここでの状況を知りたい。
またも、無期限での丁々発止に戻りそうな気配がしてきたので、そこを大人の対応で纏めようとするタケルの姿があるのですが、
それでも尚、止めようとはしない彼女達に、一つの道理を説いたのです。
そう・・・「一人芝居」では、「戦」や「喧嘩」は、成り立たない―――と、云う事を・・・
果たして、リリアやたまもは、このときタケルが何を云いたかったかを察し、速やかに陳謝をしたところ、
それ以上の大人の対処をされ、今度こそ真面目に問題に対処し始めたのです。
つまり・・・最早、形骸化され、建前としての役割も担わなくなった、リリアのトロイア入国の目的。
それに、建前としての役割も果たさなくなったとはしても、尊敬しているジョカリーヌの為を想い、
自ら率先して動いてくれている事に、タケルは感謝の意を表すとともに、リリアの助言役を買って出てくれたのです。
第六十七話;分かち合える者達
そして―――これにより、明らかとなってきた、ある問題・・・
それは、現・トロイア王室内部で、侵蝕・・・侵攻しつつある、只ならぬ黒き噂―――
しかも、そうした噂の根拠を、当該王家の一員でもある、イリスの口からも語られ始め・・・
リ:―――ン、だって・・・あんたの親父さんに、お袋さん・・・あと、二人の兄貴の様子が??
イ:ええ―――それに、そうなりだしたのは、ここ最近、父が一人の得体の知れない呪術師を、王宮に招き入れてから―――
私を除く他の家族の行動に、変調を来たしてきた・・・と、今思えば、そう思わざるを得ません。
し:それ・・・って、もしかして、「カイエン」って、云われていなかったですか。
イ:「カイエン」? いえ・・・私が耳にしたのは、「アレクセイ=セルゲイビッチ=クドリャフカ」と、云う名です。
カイエンと云う名では・・・あの、それがどうかしたのですか。
し:・・・いえ、なんでも―――
イリスからの告白により、或る程度の形容が見えてきた気がしました。
優しかった、父や母や二人の兄の変調ぶり―――
また、それに併せるかのようにして、父が、どこからか拾ってきた、いかにも胡散臭そうな、自称・呪術師の出現―――
そんな、身元も定かではない様な人物を、宮廷の相談役として招き入れてから、先ずは母が―――そして次には、二人の兄が・・・
そのまた次には、恐らく・・・ではなくとも、必ずや自分の番になるだろう―――と、いち早く危機を感じたイリスは、適当な理由を見繕い、
極力、城内・・・取り分け、自分の家族の近くにはいないようにはしていたのです。
するとしのは、その、怪しい自称・呪術師を、自分達が追っている「カイエン」ではないか―――と、思ってしまったようですが、
イリスから、例の呪術師の正体を聞かされると、違っていた―――・・・
そのことに、カイエンが、自分達から逃れるため、この国を目指していた―――と、云う、当初の予測は、ここに来て全く当てが外れてしまっていたのです・・・。
=続く=