その山の頂は・・・今までに、征服してきたモノの中でも、そんなには高くはなかった―――
多寡が・・・標高1万kmを越えるモノではなかった―――
だ・が―――
高所登山に措いて、最も忌むべきモノにして、禁物とも云えるのは、そうした「油断」「気の緩み」から来るモノ・・・
だから、その隊員は、自身のそうした「慢心」と云うモノを、山に存在する「神」に付け込まれ、
現在―――登山隊の隊長の、手を煩わせることとなってしまっていたのです。
隊:た・・・隊長〜〜―――もう・・・この辺で・・・自分は・・・
長:莫迦を云え! まだ諦めるな!!
隊:し・・・しかし・・・じ、自分が、この山のことを、甘く見ていた為に・・・隊長にまで迷惑をかけて・・・
長:もうすぐで、第五キャンプがあった辺りだ、そこまで粘れ!
今まで―――標高1万km超の山々を、征服してきた自分達が、まさかこんな低い山で、遭難をするはずが・・・
そんな認識不足で、エグゼビア大陸にある、標高の一番高い山―――「エメト山」(標高9200m)に、挑んだのが間違いだった・・・
それに、常日頃から、その隊員が所属している、登山隊の隊長からは、「山には生命を欲する神がいる・・・」そのことを、云い聞かされていたものだったのに―――
今では、そんな教訓を、活かせる事も出来ない・・・。
その隊員は、負われた隊長の背で、宛らに悔いていたモノだったのです。
そして、どうにか、「エメト山」を越える為、「拠点」としていた場所に戻ると、傷付いた隊員の応急処置を始める為、
隊長は、着ていた登山服を脱ぎ捨てると、瞬時にして「ある存在」へと、変化を遂げたのです。
過去の記録によれば・・・「蒼龍の騎士」と呼ばれていた、登山隊の隊長は、自らの鎧についている「鱗」を剥がすと、
凍傷によって、動かなくなった隊員の手足に貼り付け、快復を待ったのでした。
しかし―――この隊長の行動に、異議を申し立てた、登山隊の副隊長は・・・
副:隊長―――キリエさん、敢えて云わさせて貰いますが、今のこいつの様は、こいつ自身の認識の甘さ、自己管理の欠如が・・・
キ:そんな事は、判っているわ―――ユミエ・・・
けれどね、私は自分に誓ったの、この私が、この登山隊の隊長でいる限り、一人として隊員の欠員は出すまいと・・・。
それが喩え、日々の生活に、支障が出るとしても・・・。
キリエ=クゥオシム=アグリシャスと、ユミエ=イクス=ペルサスは、現在から500年も前にも、「エメト山」より、もっと環境が過酷な「ヴァーナム山脈」を、幾度となく越え、
絶対に近い自信を付けて、この惑星に在る「五大陸」の、「最高峰全制覇」と云う、偉業を達成するところでした。
しかし・・・一隊員の不注意により、北方に在る、エグゼビア大陸の最高峰、「エメト山」登頂間近で、断念せざるを得なくなってしまっていたのです。
そして、この「偉業」を、断念せざるを得なくなってしまった、そもの原因を、不注意を起こしたその隊員に求めていた―――と、云うわけではなく、
どちらかと云えば、ユミエは、「副隊長」である自分が、その隊員の不注意を読み切れないでいた―――つまり、管理者である自分が、実は「慢心」していたのではないのかとしていたのです。
第八十三話;越えなければいけないもの
そして、救命処置も終わり、キリエも、元の・・・幼い身体に戻った処で―――
(どうやら彼女も、ここ500年の間に成長を果たし、母である人物と同じ様に、形態を「幼生退行」させたようである。)
キ:副隊長、外の状況は―――
ユ:未だ、地吹雪の方は止まず―――ですが、先程よりかは、勢力は衰えつつあるようです。
キ:そう・・・では、総員各位、装備を点検―――これより一気に麓まで下りるわよ。
キリエが率いる登山隊は、総員5名―――
数は少ないながらも、これまでに「ガルバディア」「ロマリア」「ランド・マーヴル」「エクステナー」の、「最高峰」を征服してきた、強者ばかりでした。
けれど今回、一隊員の不注意により、エグゼビア大陸の「エメト山」は、残念ながら断念せざるを得なくなってしまったわけですが・・・
実はキリエは、そこの処は、「不名誉ではない」としていた節もあったのです。
それと云うのも、キリエには、なにが「登山家」の「不名誉」なのかを知っていたから―――だから・・・
「失敗」をしても、次を挑戦すればいい―――
この命の、続く限りは―――
命が続く限りは、何度だって挑戦することが出来る―――
それが、つまらない意地を張りとおし、「無理」を押して決行させ、「隊」を全滅に導いた―――過去の自分の所業・・・
お陰で、自分よりも知識のあった人物―――嘗てキリエが所属していた、登山隊の隊長をも亡くしてしまった・・・
それこそが・・・本当の「不名誉」―――
もう・・・亡くなった人達は、大好きな山にも登れないのだから・・・
愛している・・・家族達にも会えないのだから・・・
だから、キリエは、「隊の欠員を出さない」事に重点を置き、今回は登頂を諦め、次の機会を伺う事にしていたのです。
・・・ところで―――お気付きになられたでしょうか。
そう、奇しくも、キリエにユミエ達は、エグゼビア大陸に来ていたのです。
それに、彼女達が目指していた「エメト山」も、地理的に、「北西部落」の入口に該当・・・
つまり、当初から、その部落の人間達が、「トロイア国」に陳情していた、「街道の開通」も、
険しい「エメト山」を切り拓いて欲しい―――との、要望でもあったのです。
こうした、利害関係の渦巻く直中に、キリエ達は、「北西部落」に下山してきたのです
その一方で、タケル率いるトロイア工兵隊は、切り立った崖や、深い渓谷―――急流と云ったような、「剣閣」と云って差し支えない環境を、
それでも、少なくない犠牲を払いながらも、時間と費用を投資し、凡そ一カ月と云う時間を掛け、ようやく街道の整備を終わらせる事が出来たのでした。
タ:皆さん、ご苦労様です、後はワシにお任せを―――・・・
「部落側」が、一にも二にも、要望に出してきた事とは、部落側と、トロイア国とを結ぶ、「街道」の確保でした。
確かに「道」は、物資の流通や、文化間の交流の、大事な経路ではありましたが、
それは同時に、戦争時の「侵略経路」にも成り得る・・・その危険性を、トロイア国の軍部や一部の内政官は、指摘をしていたのです。
ですから、この時のイリス―――果ては、タケルの断行は、そうした反対派の声を押し切ったことでもあったのです。
それにしても・・・どうしてタケルは、この事案を、強制施行に踏み切ったのか・・・
彼もまた、一時期には、ある国家の内政の、中心的な役割を果たしてきたはずなのに・・・
しかし、彼には、ある打算がありました。
それと云うのも・・・タケルは、これから部落側と、交渉を始めようと云う―――その前に、ある場所を訊ねたのでした。
タ:お邪魔いたしますよ。
リ:あっ―――タケル??さん・・・。
こっ、これはまた〜〜偶然な事で〜〜あははは・・・
その場所には、「桟橋」や「橋」など、この度出来上がった『レーゲン街道』の完成を見守っていた、リリア一行がいました。
その事を知っていたかのように、タケルが訊ねてきた事に、リリアも少し罰が悪そうな表情を浮かべていたのです。
それと云うのも、街道を切り拓いているにも拘らず、自分達は、高見の見物を決め込んでいたも同然なのだから・・・
けれども、それは仕方のない事でもあったのです。
市子は・・・実は、今回の件に係わるのと、ほぼ同時に目を患い、現在では、本当に失明をしていました。
しかしその事を、当初はリリアにも打ち明けずにいたのですが、ヴァンパイアの侯爵であるマキには、既に見抜かれており、
今では、養生の最中でもあったのです。
そうした、自分の不手際を、市子は一途に、リリアに詫びる処となるのですが―――
リ:そう、自分を責めるな・・・責めたって、何にもなりゃしないよ・・・。
てっきり、隠匿していた事を、責められるばかりだと、そう思っていた・・・
だけど、その人は、優しく慰めてくれた・・・
でも、その優しさは、逆に自責の念に駆られるところとなり、激しく怒ってくれた方が、幾分か気の方も楽になれるだろうと、市子は思うのでした。
しかし、そうした市子の思惑なども、リリアには既に分かっていたモノと見え、だからこそあんな言葉が、自然と出てきたのだと、蓮也は思っていたのです。
それにしても、その場には、一人足りませんでした。
そう・・・市子が隠していた事を見抜き、指摘までした、あの人物―――
マ:おい〜っす♪
おっ、タケルさ〜ん、タイミング、バッチ・グーよ♪
タ:これは侯しゃ―――いや、マキ・・・上機嫌な処を見ると・・・
マ:フフン〜♪ まだいるってよ―――だから、あたし達が行くまで、待ってろ〜って、云ってやったのよさ。
リ:・・・話しの内容が、見えてこないんだが?
タ:実はですな―――
侯爵のマキが、上機嫌でリリアが借りている一軒家に戻ってきました。
そのことで、既に自分の目的が、大半成就している事を悟るタケル・・・
今回のお話しで、その大半を、今までの「筋」とは違う展開をした、その裏の背景にあったモノとは―――
それにこの時、マキは、既に「ある者」の存在を、臭わせてもいたのです。
=続く=