第九十四話之弐;大魔障・崇徳上皇討魔次第
400年前もの昔―――常磐の都、「洛中」を襲った大魔障こそ、前に讃岐へと流され、彼の地にて悶死した「崇徳上皇」の成れの果て・・・
その、おどろおどろしき様を、目の当たりにした人々の内に、当時、「美福門院」とも呼ばれていた、鳥羽上皇の愛妾「玉藻前」もいたのでした。
自分達の栄華を誇る為、それが喩え、一族だとしても疎ましく思える時がある・・・
その当時起きた「保元の乱」は、どちらかと云えば、骨肉同士の醜い争いと云った方が、判り易い喩えでもありました。
それよりも、玉藻前は、「大怨霊」「大魔障」となって、都を襲い来た崇徳上皇に、甚だ疑問を抱いていたのです。
玉:(ばかな・・・よもや崇徳が、わしと同じく「異能」を使える者じゃったとは・・・!
生きておる間は、その様な素振りを、欠片ほども見せなんだものを・・・
―――と、すれば・・・誰がおったのじゃ、「異能」は、遺伝の要素が強くなければ、扱う事は難しい、
それに第一、崇徳のみが得たモノでもあるまいに。)
当時から、玉藻前は、普通の人間にはない、優れた能力が備わっていました。
それは、時の権力者さえも虜にした、圧倒的な美貌も宛らに、他人・・・特に、異性を惹き付ける魅力が、ずば抜けて優れていたと云えたでしょう。
ですが、玉藻前には、そうした外見上の能力だけではなく、どちらかと云えば「超能力」・・・つまり「異能」が備わっていたのです。
手を触れずして、物体を動かしたり―――だとか、煙のない処から、火を発生させたり―――だとか・・・
兎に角、人間離れした能力を持っていたのです。
けれどもそれは・・・云い換えてしまえば、「政敵」―――玉藻前の事を、余り快く思わず、何れは排除したい・・・と、思っている者達の的にもなってしまい、
こうした政変の後、そうした者達からの依頼を受けた陰陽師の手によって、那須の地に、「殺生石」となって封ぜられてしまったのです。
閑話休題―――・・・
しかし、この、都を襲った「大魔障・崇徳上皇」の正体と云うのも、宙外から飛来して来た凶悪犯罪者が、
この惑星に措いて、自分達が活動しやすくなるように・・・と、近場にいた、本物の崇徳上皇を襲撃―――
呆気なく、凶悪なる者の軍門に下ってしまった上皇は、凶悪なる者に取り込まれてしまい、
この直後から、この凶悪なる者・・・ストゥク=カイエン=グワゴゼウスが、崇徳上皇になり済まして、
連日連夜・・・都、「洛中」を襲っていたのです。
ところがある時―――・・・
無抵抗な者達を、散々蹂躙した揚句、略奪してきたグワゴゼウスは、自分が根城として構えている、本物の崇徳上皇の、流刑先の邸宅に戻ってきた時・・・
グ:ん・な―――・・・なんだ、こりゃあ!!?
おい!一体ここで、なにがありやがった!!
手:ああ〜〜お頭〜〜すんません―――
手:な、なんか、やたらめったら、すっげぇつええ奴が現れて・・・
グ:あ゛あ゛?? 全部奪れた―――って云うのか?!
ちっ・・・使えねえヤロウ共だ―――
おい、大体、野盗が、奪ってきたモノを全部奪れて、どうするってんだよ。
手:すんません〜―――すんません〜―――
グ:・・・ちっ、益々もって使えねえ―――
もういい・・・手前等はもう、用済みだ!!
自分の根城へと戻ってみれば、今まで強奪してきたモノが、別の野盗に襲われて、根こそぎ奪われてしまった・・・と、云う事実が判明したのです。
しかも、その為に・・・と、置いていた「見張り役」は、その機能を果たしておらず、
自分の根城を襲った者達の「規模」「勢力」・・・況してや「顔」ですら覚えていなかった事に、次第に業を煮やし始めたグワゴゼウスは、
仲間であるはずの見張り役達全員を、その手で処刑してしまったのです。
そして、そんなには残っていない、僅かな手掛かりで、自分の根城を襲った者達を探り出そうとした処・・・
グ:くそぅ・・・この辺りを隈なく探せ―――!
まだそこら辺に、隠れていやがるかもしれねぇ・・・
ヤロウ・・・どこの莫迦か知らんが、このオレ達―――「グリフォン」に逆らったら、どう云う目に遭うか・・・思い知らせてやる!!
怒り心頭―――第一、野盗が、他の野盗に、「タタキ」に入られたとあっては、組織の面子も丸潰れだし、
そんな事を許してしまった自分も、ただでは済まない・・・
やはり、何かしらの「ケジメ」は、つけなければならないので、そう云う事にならない為にも、
犯人探しと並行して、既にこの惑星に来ているはずの、自分の兄貴分に連絡を入れようとした処・・・
グ:それよりもまず、ナグゾスサールの兄貴に連絡だ。
本来なら、手土産と一緒に・・・と、思っていたんだが―――こうなったらそうも行かねぇ・・・
おい―――ナグゾスサールの兄貴は、まだか!!
広域指定犯罪組織「グリフォン」―――その上級幹部であるシュトゥルム=ドミチェリ=ナグゾスサールが、
この宙域一帯を「縄張り」とするべく、既に地球へと来ている事を、グワゴゼウスは知っていました。
だから彼は、ナグゾスサールが降下した地点から、さ程離れていない、常磐の讃岐へと降下し、
義兄弟の兄貴分に、是非とも気に入られるように、「手土産」として、洛中を襲っていたのです。
そう・・・つまり、降下してすぐ―――にではなく、数日経っている今を以て尚、そうしていないのは、
いくらかの手土産があった方が、自分の格好が付くから・・・と、思い、具合の好い機会を見計らって、連絡を取る算段でいたのです。
しかし、何者かによる、心無い仕打ちによって、自分の、組織内での立場も危うくなると感じ、
背に腹も変えられないと焦ったグワゴゼウスは、大至急、部下に連絡を急がせるのでしたが―――・・・
誰:チ・チ・チ―――そいつは、出来ねえ相談だなぁ。
グ:(?!)何奴だ―――!
誰:名乗る程の者じゃねえよ―――
グ:なんだ・・・手前は―――
誰:・・・フッ、哀れだねぇ―――
グ:なんだと?!
誰:「哀れ」・・・だって云ってやったのサ。
お前の待ち人は、もうこの世にはいない―――ってのによ。
グ:フッ―――ハハハハ!
何を莫迦な! こんなに後れている、未開の惑星に、オレ達「グリフォン」の上級幹部である、ナグゾスサールの兄貴が、この世にいないってはずが・・・
件の襲撃者は、実は、未だこの場に留まっていました。
そして、薄暗い闇の内で、自分達の一挙手一投足を、その目に収めていたのです。
その事は、件の襲撃者にとって、実に滑稽な事に映ったのに、違いはなかったでしょう。
なにより、自分の存在を明かした時、どこかニヤついた表情を、浮かべていたのですから・・・。
しかし―――殊更グワゴゼウスが、自分の兄貴分を持ち上げると、
恐らくは、その事が鼻に衝いたのか・・・
サ:―――るせぇよ・・・さっきから云ってんだろうが!!
その、ナグゾスサールって野郎は、死んだんだよ!!
それも、私の友である「リリア」の手によってなあ!
だけどなあ・・・私が赦せねえのは、そいつが、鼬の最後っ屁のように、リリアに呪いをかけて死にやがったんだよ!!
グ:なんだと・・・兄貴は既に―――?!
しかし、フ・フ・・・流石は兄貴だ、そいつを道連れに―――
サ:そいつが気に入らないんだよ・・・お前らみたいな宇宙のクズが、死にやがる時には一人で死にやがればいいモノを!!
私の友を巻き添えにする事はねえだろうが!
グ:ちょっ・・・ちょっと待て―――何を手前勝手な・・・
サ:うるせえよ・・・「手前勝手」は、お前らの専売特許だろうが―――・・・
それとも、なにか? 私が使っちゃならない、道理がどこにあるってんだ、そんな道理なんざ・・・どこにもないよなぁ・・・。
この時グワゴゼウスは、朧げながらにも、理解し始めてきました。
自分が敬愛する兄貴分は、自分達よりも凶悪な考えを持つ者によって、不慮の事故死を迎えたのだ・・・と。
そう、思わざるを得ませんでした―――そう、思わなければなりませんでした―――
何よりその証明は、自分の目の前にいる、恐らくは・・・自分の生命を剥奪しに来た、この女がしているのだから・・・
しかしながら、この結末は、各々の思惑とは、また別に運ばれていくのでした。
=続く=