<参>
(そしてそれから2・3時間後・・・)
お:(む〜〜〜・・・お、遅ひ・・・遅すぎるぞ!! あやつ・・・本当に逃げ出したのではなかろうなぁぁ!(―W―#)
京:(ま、柾木さん・・・もんのすごひ怒ってる。 と、いうことはあのお噂は本当だったのね? たとえ澄ました顔をしていても・・・というのは・・・。)
婀:ぷふぅ〜!! お待たせしました、お京殿に、姐上。
お:あ・・・っ! 婀陀那ちゃんっ!あなたどこへ行っていた・・・と・・・?(こ、これは!!)
婀:え?あぁ、ちと材料を取り揃えるのに、手間取りましてな。 総てをそろえるには、苦労いたしましたわ。
お:ざ・・・材料・・・って、何を?
婀:フフ、これでございますよ。
(そう・・・婀陀那(ステラ)、実は逃げ出したのではなく、(まぁ当たり前ですかんね?)
これから自分がなそうとする、おもてなし の食材を取り揃えるのに、奔走していたようなのであります。
では、今回の食材と、その品目・・・とは?)
京:こ・・・これ・・・何?
婀:ぅん?ああ、これですか、これはですなぁ、血合いを外した、薩摩は山川の鰹の本節・・・・に、八女産の芽茶でございますよ。
お:“芽茶”とな?
婀:そう・・・一番摘みの『玉露』や『煎茶』の、一番先の方を集めたものでしてな。 お茶の中でも一等香りと味の濃い、お茶っ葉なのですよ。
京:(あ・・・婀陀那??)
婀:それと、こちらは・・・・(ドンッ!)
お:(んな・・・っ?!) お、お櫃(ひつ)??どしてこんなもの・・・・
婀:いやですのぅ〜〜姐上も! これに入れるものといえば、炊き上がりの白いご飯に決まっとるでありましょうが!!
京:ええ?そ、それじゃあこれのために時間を?!
婀:イヤ?こんなものは、ものの4・50分ほどあれば、できるものですよ。
お:で・・・ではどうしてこんなに時間を・・・?
婀:(フ・・・・) それは・・・こやつのせいですよ・・・。
ス ・ ・ ・ ・ ・
(婀陀那(ステラ)、懐よりあるものを取り出す、するとそれは・・・・?)
京:え・・・・そ、それは!!?
お:ま・・・・まさか??!
京・お:わ、山葵??!
婀:いかにも・・・。 ところでお京殿、先程のお主が出してくれたモノ・・・あれは一体、どこぞの産のモノでございますかな?
京:え?え〜〜〜っとぉ〜〜〜・・・・確か、滋賀県産のもの・・・だったと思うんですけど。
婀:左様でございますか。 ならば、こちらは今、取り立てたばかりの、地のものじゃ。
お:“取立て”の・・・“地”?? 一体どこで・・・
婀:その前に、山葵というものは、一体どこに生えとるものなのでしょう。
お:え??え〜〜〜と〜〜〜〜
京:・・・・・・どこだったかしら???
婀:はい、時間切れ。(ぽんっー☆) 答えはですな、清流や、渓谷などの・・・・水辺にですよ。
お:は・・・・・そ、そう・・・。 でも、ここにそんな・・・・(はっ!!)ま、まさか??!
婀:(にっこり) ようやくお気付きになられましたか。 そう・・・ここには、“稲荷の岩清水”がござる。
そこの清流には、今でも尚、いろんなものが妾達の口を愉しませてくれる・・・と、こういう事でございまするよ。
それに、遠くの“名産”より、近くの“取立て”・・・とは、よく言うたものでしてな。
さて・・・・では、早速取り掛かりましょうかな?
(そう・・・・婀陀那(ステラ)の持ってきたものとは、 鰹節(本節)・お茶・ご飯・・・そして山葵 の計4品だったのです。
では、この4品で造るモノとはなんなのでしょうか??)
婀:さてと、まづは鰹節の方から・・・。 これもきちんとするとなると、結構大変でしてな・・・
まずは・・・こう・・・・両の膝でしっかりと、箱を挟み込んで・・・
それから鰹節は、頭の方を先にして、体重が乗るよう両手の掌でしっかり押さえて・・・・素早く!
か しょ っ!
お:(驍様・・・)あ・・・あの・・・婀陀那ちゃん?あなた一体何を・・・
婀:ええ?一体何を・・・って、鰹節を掻(か)いておるのでありますが?
お:そ・・・それにしても、そんなに居住まいを正した姿勢でするものなのか?
婀:まぁ・・・古い道具ってなぁ、そう言う道理に出来ておるものなのでしてな。(かしょっ)
上手に、美味しく掻こうとなると、自ずとこうなってくるものなのですよ。(かしょっ)
京:で・・・でも・・・だったらどうしてお台所でなくて、ここで?
お:やはり、お茶漬けは拵(こさ)えたてでなければ・・・のう? (かしょっ)
京・お:お・・・・お茶漬けぇ??!
お:お、お茶漬け・・・って、そんなものを、こんな・・・・
婀:おや?お茶漬けはお嫌いでありましたかな?
お:い・・・・いえ・・・。
婀:そうですか。(にっこり) それでは、少しお手伝いを・・・確か姐上は、書の方はお得意でありましたな?(かしょっ)
お:え?えぇ・・・・。
婀:では・・・・これ(山葵)を、墨をする要領でお願いいたします。
しゅりしゅり・・・・しゅこしゅこ・・・・
婀:・・・・・・・・・。(―
― )゛ (かしょ かしょ)
お:・・・・・・・・・。(―
―;;)゛(しゅこ しゅこ)
婀:さてと、妾の方は終わりましたぞ?姐上の方は?
お:一応・・・・。
婀:(ふむ・・・)では、卸した山葵に、茶碗で蓋をして・・・・
京・お:ふ、蓋ぁ??!
婀:そっ、香りを逃がさず、山葵が落ち着くのを待つため・・・・に、ですよ。
京:(そ・・・っ、それじゃあ、私が設(しつら)えたというのは・・・・?)
お:(お京・・・・)
(どうやら、アダナ(ステラ)の造るモノの全容が、ここではっきりしてきた模様です。
そう、それは何の変哲もない、 ただ のお茶漬け。(しかも、鰹節と山葵だけの・・・)
それには、おひぃ(婀陀那)も初めは、普通のお茶漬けに、こんな大袈裟なものを・・・と、思っていたのですが、拵えていくうちに、
これは ただの とか、 普通の で、片付けてはいけないようなものだと気付き始めるのです。)
婀:ほんじゃ、仕上げと参りましょうかの?
掻き終わった鰹節に、正油をわぁ――っと、ざっくり、ざっくりなじませといて・・・・次には、いよいよこの芽茶のご登場!
では、まずは茶合に少しばかり多めにお茶っ葉を量って・・・・(さらさら・・・・)
京:(あら・・・)これはまた、随分と細かい・・・・
婀:まぁ・・・これが 芽茶 と、いうものでありますから・・・。
そしたら、それをお湯で温めといた急須に入れといて・・・・で、もって、
ご飯の方は、少し時間が経って、シャリくらいの固さのヤツを、この三つの飯碗に、ほんのすこぉ〜し、
そこへさっきの鰹節と山葵を贅沢に、たぁ〜っぷりと入れまして〜?
そして、さっきの急須には、沸ききって、少し落ち着いたお湯をとにかく元気よく!(どぼどぼ・・・)
それから待つこと一分、かけるときには、山葵には絶対に当てぬよう、当てたら最後、肝心の風味も香りも飛んでしまいますからな?(こぽぽぽ・・・)
(全くもって、流れる水の如きの作業とはこの事で、その手並みの良さに、お京さんと、おひぃ(婀陀那)は、言葉さえも失っていたようです。
そして・・・)
ふ わ ぁ っ ・ ・ ・ ・
お:(すん・・・・) う・・・ん?
京:(すん・・・・) え・・・?へ・・・?
お:な・・・なんなのですの・・・この香り・・・・鰹と、山葵の香りが・・・・お茶の湯気と一緒に立ち上って・・・・!(とくん とくん・・・)
京:ま・・・・まるで、この部屋の中の空気が・・・・そっくりそのまま・・・!(とくん とくん・・・・)
お:う・・・・ウソ・・・・やだ、何?この緊張感・・・。 わ、わたくし・・・なんだかドキドキしてる・・・・
婀:まぁ、拵(こさ)えたての誤魔化しの利かぬモノというのは、須(すべか)らくそういうものでありましてな。
それが・・・ 多寡(たか)がお茶漬け 一つにしても・・・な? さて・・・出来上がりましたぞ、食してみなされよ。
お:あ・・・っ、はい。(どきん どきん・・・)
・
・・・・・・・・・・・・。(どきん どきん・・・!)
じ ゅ る ・ ・ ・ ・ っ
お:・・・・・っく っ は あ ぁ ぁ 〜 〜 っ !
お、おいしいぃ〜〜〜っ!! あ、あのお京が作ってくれたお蕎麦もですけど・・・・このお茶漬けと言ったら、まるで体中の毒気が抜けていくようだわ?!
京:ホントに・・・なんだか自分が恥ずかしくなってきちゃった・・・あのやり方で、有頂天になってた自分が・・・・。
それにしても婀陀那、学生の頃から洋風一辺倒で鳴らしてたあなたが・・・まさか、和風の・・・しかもぎっちり詰まったこれを知っていただなんて、
これは、見直さなければいけないわね。
婀:(ふふ・・・) まぁ、そこはそれ、妾も一応は メイド・イン・じゃぱん でありますからの? では、妾も一口・・・・
ぷっはあぁ・・・っ! ・・・・っったまらんっ!!
(その料理の手並みはいざ知らず、そのお味のほうは・・・・・今更ながらに、言うべき言葉もなかったようでございます。)