<肆>
ソ:ふぅうう・・・・。
(そして、そこにいたのは、シホ=マクドガルという女人(にょにん)の姿はなく・・・・
墨より冥き甲冑をその身に纏った、かつては生きとし生ける者の、畏怖の対象であった
一匹の魔族の姿がそこにはあったのです・・・。)
ソ:(ギロッ!) おい・・・・そこの小僧、キサマ如き、我が『片眼』だけで十分だ
かかってこい・・・。
ル:ぅおんのれぇぇ〜〜い! なめきりおってぇえ!!
ソ:フ・・・・うつけが・・・かかりおったか 『孤火招来』(こびしょうらい)!!
ぼぉわぁっ!
ル:う・・・・うぉっ!な、なんだ・・・それは!!
ソ:ククク・・・・まだ分からんか。
これこそが・・・・この、青白き炎の狐こそが、この子の秘められたる真の能力というモノだよ。
私は、ただ単にそれを引き出してやったにすぎん・・・。
ル:ぅぬう・・・・中々にやってくれおるわ・・・・。
だがな、今キサマのした事とは、明らかなる、我らに対する背信行為、
いかな『魔皇』とは言えど、この事からは免れえぬからそう思え!!
ブゥゥウン・・・・
ソ:フン・・・・捨て台詞だけ一人前になりおって、だから はなたれ小僧 なのだ。
どれ・・・お姉ちゃんの魂、返すぞ・・・。
ぼっ! すうぅぅ・・・
コ:ぅん・・・・・あ、あれ・・・?あ、あたし・・・・(くしくし)
乃:・・・・・・お、おねぇちゃまぁ!・・・・・・・。
コ:あっ、乃亜・・・・心配してくれてたんだね・・・?ありがと。
(どうやら、一時的になされたコみゅとの“契約”は解除され、彼女の魂は、彼女の元へと帰ったようです。
そして、その事によって、古の『魔皇』だった者の姿も、今は元の姿・・・ マザー シホ=マクドガル の姿に・・・)
マ:ふぅ、どうやらやっと片がついたようだな。
どれ、私はゆっくり休ませてもらうよ・・・。
臾:ち、ちょい待ち! ちょっとあんた、きっちり説明してんか?
ちょいと・・・・聞いとんのかい!おっさん!!
シ:え・・・・っ?!あっ、はい、どうもすみません。
婀:うんっ?!そなた・・・・・もしや??
シ:はい?私・・・ですか?
私は・・・・ シホ=マクドガル という者ですが、何か・・・・?
婀:(そうか・・・・やはり)そなた、シホ殿ご本人でいらっしゃいまするな?
シ:は?はい・・・シホは私ですが・・・・。
臾:あ゛〜〜!!なんやさっぱりワケ分からんわ!!
なんちゅ〜〜会話してんねん!!
女:つまり・・・・・その方が本当のシホ=マクドガル・・・・つまり『セイバー』と呼ばれた方ですよ。
さて、私も引き上げさせていただきましょう。
では、婀陀那・・・・事態の収拾の方・・・・。
婀:ハッ、万事心得ておりまする・・・。
さてと、ともかくナオミ殿と、姐上、それとコみゅ殿を治療院に運びましょう。
(そして、治療院に向かう道中・・・・)
臾:えっっ?!なんやて??
今の今まで・・・・元締め・・・・っつ〜か、この人の中に入ってたんは・・・・
婀:いかにも、『魔皇』ソロン・・・だったというわけじゃ。
どうやら、7年前に魔族と渡り合っていた際に、瀕死の重傷を負わされたシホ殿は、
やむなしとしてソロンの魂と契約を結んだらしいのじゃ。
J:そりはちょと違うようですねー。
あたしの調べたとこによると、確かに・・・その ソロン とか言うヤツ??
初めは、シホさん利用して、復活の機会をうかがってたようなんすけど・・・・
どうも、あたし達、人間の持つ 情 に感化されちったみたいで・・・・
それで、魂の二世帯住宅? みたいになッちったみたいっすよ〜?
サ:なぁる・・・んじゃあ、ミイラ取りがミイラになっちまったと・・・
なんか、笑えねぇ話だな。
J:あっ!それから後一つ、どやら、シホさんって、無類の可愛らしい物好きのようだったみたいっすねぇ。
臾:はぁ?なんですかいな、そら・・・
婀:も、もしかして・・・・あの時、とっさにコみゅ殿や、乃亜殿をかばった・・・・というのは・・・
J:そですね〜、どやら潜在意識の中でやっちゃったみたいですよね。
あっ、着いたよですよ?治療院。
(そして、着いた治療院には、予め、このような事態になる事を予測していた、女禍の託宣どおり
ステラが配置についていたわけでありまして・・・・)
ス:(ヤレヤレ・・・・)無理しちゃって・・・。
幸い出血のほうは、婀陀那っちが上手い具合にしてたみたいだから、なんとかなりそうですね。
医:うむ、では傷の残らぬよう処置を・・・・。
ス:それと、この子は・・・・ビタミン剤を投与しておけば大丈夫でしょう。
それより、問題なのは・・・・。
医:うぅむ・・・この女性か・・・・左腕が、完全に分離して、どのくらいの時間が経つ?
ス:この様子だと・・・・離れて間もないように見えるのですけど・・・・
医:何?それはホントか・・・・なら急いで処置すれば、何とかなるかもしれんな・・・・
それでは、これより、左上腕の接合術をはじめる。
・ ・・・・・・・・・・メス・・・・・・・・・・・・・・神経縫合糸・・・・・・・・・・・人工血管・・・・・・・・
・ ・・・・・・・ミューラーの固定子・・・・・・・・・・○○号の縫合糸・・・・・・・・これで・・・よし。
術式終了。
ス:ふー、どうやら、無事すんだようですね、ありがとう、医院長。
医:いや、なに・・・・これも、君みたいな優秀な助手のお蔭だよ。
(どうやら、この治療院に運ばれた、おひぃさん、コみゅ・・・・そしてナオミの三人は、
ここの医院長と、その時詰めていた助手の一人のお蔭で事なきを得たようです。
そして・・・・・)
サ:あっ、ちょいと、スーさん、どうなんだい? あいつらの容態・・・。
ス:うん?ああ、幸い、ひぃちゃんは、肩口の傷だけで助かったよ。
コみゅは、一日、安静してれば大丈夫だろう・・・。
乃:・・・・・・よ、良かったみぅ・・・・・・・。
サ:・・・・・で、ナオのヤツは・・・?
ス:手術のほうは、上手くいったよ・・・・。
だけど、この事故以前のように・・・・・とまでは、行かないかもしれないねぇ。
でも、普通に生活送るうえではなんも支障はないと思うよ。
(どうやら、三人の容態、ステラの言葉を聞く上ではなんでもないように思えるのですが・・・
そこは、やはり見ると聞くとでは違うといいますので、全員、早速病室のほうへ足を運んだようです。)
婀:姐上、いかがですか、お気分のほうは・・・・。
お:ありがとう、婀陀那ちゃん。
・ ・・・でも・・・・わたくしの余計な発言のお蔭で、
部外者のお方に、ご迷惑をおかけする事になるなんて・・・・!!
乃:・・・・・おねぇちゃま・・・大丈夫?
お:それにしても・・・・コみゅちゅん、潜在能力、あんなに素晴らしいものをお持ちだとは・・・・。
婀:・・・・・・そうですなぁ・・・。(さは言えど、あの者は、稲荷大権現の『左将』じゃからのぅ・・・)
サ:おい、大丈夫か、ナオ。
腕、取れちまったけど・・・・くっついてっから大丈夫だよ・・・。
臾:せ、せやねんで?? また普段通りに生活できるんやさかいに・・・・。
ナ:・・・・・なぁ、変な慰めなんかよしてくれないか・・・?
どうせ、傷ふさがっても、もう元には戻れやしない・・・前線で戦えやしない・・・
とうとう・・・・・お払い箱・・・・ってヤツさ。
シ:・・・・真に申し訳ありません。
知っていたとはいえ・・・・無理な指令ばかり出していたみたいで・・・。
そのお詫びといってはなんですが、あなた方が気にされている事をお教えいたしましよう。
・ ・・・・あれは7年前・・・・。 あの時、私こと、シホ=マクドガルは、死んだのです。
あれは・・・そう、雪の降りしきる日の事でした。 仕手で、 レベルAA の者と、一人で対峙していた時、
一匹の捨て猫に気をとられてしまった私は、その者の一撃を受け瀕死の身に陥ったのです・・・・。
そこへ、偶然漂っていたソロン様の魂が、私を見つけ 契約を結ばないか ・・・と言い寄ってきたのです。
臾:ち・・・・っ、ちょい待ち!! あんた、その時対峙しとった・・・・っちゅうのはどないしたん?
シ:・・・・・封じましたが・・・それが何か?
ス:なるほろ・・・・つまり最後の力振り絞って・・・っちゅうやつやね?
臾:あっ、ステラはん・・・・。
シ:はい、その通りです。
臾:ほいで、あんた・・・・その ソロン の契約に、 乗った! っちゅうワケやんな??
シ:趣旨は違いますが・・・結果、そう言うことですよね?
サ:つまり、向こうさんは、向こうで、復活の足がかりを狙っていたと・・・・
それに、お前は今倒れちゃシャレならん・・・・と、こういうこと・・・なんだな?
シ:初めは・・・・あのお方も、そのご様子だったのですけれど、
私の職柄という事もあり、『弱きを助ける』といった事が新鮮だったようです。
私をマザーとして、慕ってくれる子供達・・・そして、捨てられた小動物・・・・そのどれもが・・・。
婀:(成る程・・・・)では、ナゼそなたが事、お金の事になるとがめつくなるのか、
そこのところをお聞かせ願いたい。
シ:それは・・・私は、かの地に『孤児院』を建てたかったからなのです。
どうしても・・・自分の手で。
それというのも、私自身が孤児だったからかもしれませんけれどね。
J:なぁるへそ・・・ンじゃあさ、おめめのほうはどうなの?
やっぱし・・・・見えないの?
シ:多分・・・あのお方が入れ替わられている時分には見えましょうが・・・
タダでさえ、邪気の滲み(しみ)出易い身体になっていますので・・・・
せめて、眼ぐらい瞑って(つむって)頂いているのですよ。
ナ:は・・・・それで、あんた・・・・あいつの邪気封じてんのか・・・・すごいよな・・・。
臾:ほんで、今はどうやんの?
シ:今は・・・少しお休みになられているようです。 ご安心を。
ナ:フ〜〜、しかし、調子狂うね、いつも命令口調なのに・・・。
臾:ほうでんなぁ、今 話し方ずーっと聞いてると、婀陀那はんやら、ひぃさんらとあんまりかわらへんようやしなぁ。
婀:フ・・・・、まぁ、良いではないか、これで謎めいた事は、大体分かってきた事じゃし・・・
お三方もお疲れじゃろう、妾達はこれで退散する事にいたそう・・・。
シ:あ・・・・それでしたら、私は、まだもう暫くここに残りますので・・・・。
(そして、皆が帰った病室にて・・・・)
シ:・・・・・ナオミさん、直りましたなら、教会のほうに来て下さい。
直接お渡ししたいものがありますので・・・・。
ナ:えっ?!あっ・・・・ああ・・・。
シ:それでは・・・・・・主のご加護のあらん事を・・・・。