≪肆;見知らぬ女児(其の弐)≫

 

 

〔それはそれでおいときまして―――寺小屋での指南を終え、子供たちを帰した自分の間借りにて、

少々疲れましたるのか、しのが転寝(うたたね)をしておるようで御座います。

 

そう――――いたしますと・・・〕

 

ドン―☆ ドン―☆ ドン―☆

 

し:(うつら〜゜)・・・はっ―――!

  ああ・・・いけない、寝ちゃっていたわ・・・。

  はぁ〜い、今、開けますからね―――

 

     ラ・・・

 

蝉:ごめんよっ―――と・・・(ぅん?)どうした―――しの・・・眠たそうな眼ぇして

し:ああ―――ちょっと寝入っちゃってたみたいなの・・・

  大丈夫、すぐ夕餉の支度をしますからね。

 

蝉:ああ―――・・・。

  ところでぇ〜〜―――土間にいるちびっちゃいのはなんだい?

し:はァ?土間に―――?(ちら) あら、あなたは――――

 

児:―――――・・・・。(ぱちくり)

 

蝉:なんだい―――どうしたい・・・知り合いかい?

し:知り合い―――とは言っても、昼方のおさらいのときに偶然来てた子でね?

  名前を聞こうとしたらすぐ出てっちゃって――――

 

蝉:ほぉ〜ん・・・で―――じゃあここにまた来たッてぇのは・・・

し:さぁ〜〜―――でも、その子、高家でしか使わないような“妾”って言葉を・・・

 

蝉:ほほぉ〜ん―――で、その妾様は一体何モンなんだい。

し:(それで喋るようなら、あの時云ってるわよ――――)

 

児:・・・・タマ――――

 

蝉:・・・あ゛?! タマ―――・・・って、まるで猫みてぇな名だなぁ?

タ:ちがぐ―――! 妾は猫ではないぞよ!!(えぐえぐ)

 

し:・・・・だわよねぇ――――(じと目)

蝉:あ゛??! ―――はは、そいつは悪かったなぁ・・・

  ―――で、そのタマちゃんは、どうしてお家に帰らねぇンだい?

 

タ:――――・・・。(む゛すっ)

  お家・・・つまんないから出てきたのだぞよ・・・。

 

し:(“つまんないから出てきた―――”って、それじゃあ『家出』??)

蝉:しかしよう―――ンなこと云ったってなぁ〜〜?

  こぉ〜ンな貧乏長屋にゃ、なぁンもありゃあしねぇぜ?! なあ―――しの・・・・(を゛っ?!!)

 

し:・・・悪かったわね゛ェ# 貧乏長屋で・・・・##

蝉:あ゛ら゛・・・いやぁ〜〜そんなつもりでぇぇ〜〜―――・・・

 

し:(フンっ――!#) はぁ〜〜い、おタマちゃあ〜ん、こっちいらっしゃあ〜〜い、

  この―――お姉さんと、一緒に夕餉を食べましょうねぇ〜(猫なで声)

 

蝉:(えぇ〜っと・・・)あのぉ――――おいらは??

 

し:あんたはその辺で野良猫と一緒に残飯漁ってらっしぇいっ―――###

 

 

〔―――なんともはや、夕刻になって本来のお勤めも終わりまして、日暮蝉之介になって戻ってきましたところの秋定。

このままで行きましたら普通に夕餉にありつけたのではありますが・・・

どうやら―――そこでいらぬモノ云いなぞをして、またもやしのを怒らせてしまい、あえなく おあづけ を喰らいましたようで御座います。

 

―――と、まあ、それはそれで良いのでは御座いますが、いつからこの間借りの土間に上がりこんでいたので御座いましょうか、

よく見ればちぃさな女の子・・・それも昼の刻に、しのの開いている寺子屋に、不意に上がりこんできていた、

件の“妾”言葉を使う、あのちぃさな女の子がいましたようで・・・

 

では―――この遅い時分に、どうして家に帰らないのか・・・と、質しましたところ、

その女の子からは、宜しくも“つまらないから―――”との言葉に、

どうも『高家』の お嬢・お姫 さまが、屋敷から抜け出してきた―――・・・

つまるところの『家出娘』のようにてございまする。

 

さても―――その家出娘ならぬ お玉 と申す者は、ひょんなことから、しのの間借りに居つく事となったのではございまするが・・・

なんと申したらよいのでは御座いましょうか・・・このお玉なる女童が居つきましたるようになってから、

不思議なことが続くようになってしまったので御座いまする。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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