<V>
(そして、この家の食卓にて。)
ア:やあ、どうも、遅くなって申し訳ない。 へぇ・・・・これがここの食卓・・・。
孟:ああ、まぁ大層なもてなしは出来んが、これでカンベンしてもらいたい。
ア:いゃあ、タダでここに置いてもらえるってのに・・・それに、そんな厚かましい事を、言える立場じゃあないよ、私は。
孟:(ほぅ・・・・。)
麗:(なんて・・・素晴しい・・・。)
ア:そいじゃいっただっきまぁ〜ッす。(はぐ・・・・んぐんぐ・・・)
あれ??どったの?私のほうばっかり見て・・・・なんか・・・した??
孟:フフフ、アルディナさん、あんた・・・その箸の持ち方、違うよ。
ア:箸ィ??なんだ?そりゃ・・・。
孟:ああ、この地域独特の食器の事じゃよ。 こうやって持つんじゃ・・・。
ア:・・・・・こう??
孟:いや・・・・・こう。
ア:こう???
麗:いえ、こうです・・・。
ア:あぁ、ありがと。 へぇ〜〜こりゃあ変わった持ち方だねぇ。
麗:そして、これで、こう・・・・挟んで食べるんです。
ア:(こう・・・・んで、こう・・・・?!)(ぱくっ!)
孟:ほぅ、初めてにしちゃあ上達が早いねぇ、あんた。
ア:えッ?!そ・・・そうかい?(テレ・・・)
麗:まぁっ、面白いお方・・・。(クスクス・・・)
ア:へへへ、ありがと。
あ、それからね、私の事、アダナって呼んでかまわないよ。 アルディナじゃあ、舌かみそうだろ?
孟:ふっ・・・・あっははは! あんた・・・見かけによらず、面白い事をいうお人だのう。 よし!気に入った!
アダナさん、あんた学者さんじゃから、ワシの書斎・・・遠慮のう使ってみなされ。
ア:ヱっ??!あっ・・・・あ、ありがとう・・・。(ちゃ〜〜参ったね。まさかこんな事になるたァ・・・・)
(いやはやなんと申しましょうか・・・。 その場しのぎで口からついた言葉が、よもやこんな結果になろうとは。
この時ほど、『口は災いの元』が、身に沁みた事はなかったでしょう。
まぁ・・・それはそれとして。(笑)
食事も滞りなく終わり、この家の主人呂孟の計らいで、この家の一室に通され、そこでくつろぐアダナ。)
ア:あ〜〜ア、ヤレヤレ・・・これからどうすっかねぇ・・・。
下手に学者になっちまったもんだから、本の一冊くらい読まなきゃいかんねぇっしょ?
ソ:『ま、せいぜい取り繕うんだな、学者君』
ア:む゛〜〜〜##
(・・・・と、そこへ、娘の麗姫がこの部屋に・・・・(しかも彼女、何か手に持っているようですが???)
ア:おや・・・どうかしたかい?麗姫さん。
麗:あ・・・いえ。 そ、その服ではなんでしょうから、私の母の着ていた服にお召し換えを・・・と思いまして・・・。
ア:へぇ〜〜〜、んで?その・・・お母さんは?
麗:母は・・・・父上と離縁・・・・別れました・・・。
ア:あ・・・・ッ、そ、そいつはすまないことを聞いちまったね。許しておくれ。
麗:いえ・・・・いいんです。 私・・・父上の事、好きですから・・・。
ア:・・・・・・。(へェ・・・。)
麗:あの、それよりこれにお召し換え・・・あっ!ど、どうも済みません!この服の着付け、知りませんですよね?
では・・・・この私が・・・。
(それからしばらくたって・・・・)
ア:はぁ〜〜これが・・・この国の衣装なのかい?
麗:そうです・・・。 (まぁ・・・)よくお似合いで・・・まるで初めてではなさそう・・・。
ア:えっ?!そうかい?? う゛〜〜ん・・・でも、なんかよくしっくり来ないなぁ。
やっぱいいや、私は・・・・元のまんまで十分だよ。
麗:そ、そうですか・・・・残念です・・・。(しゅん・・・)
ア:・・・・・なんだかなぁ〜、ちょっち、悪い事したみたいで・・・・後味悪いや。
ソ:『なら、今から追っかけて、着ると頼み込むかね?』
ア:けぇっど・・・・さぁ・・・。 もぅ・・・・なんかいいや、とっとと書斎行こうぜ?
(そう・・・彼女・・・麗姫が手に携えていたものとは、今は別れた母の品、この国の着物だったのです。
(果てさて・・・この着物の意味するところ・・・とは一体なんなのでしょうか・・・??)
そして、それは、彼女が思っていた以上に、アダナには似合っており・・・・なのですが、
当の本人、アダナはしっくり来ないようで、今まで着ていたハンターの装束に着替えたようなのです。
これには麗姫もがっくりと肩を落とし、失意の表情を隠せないままその部屋を後にしたのです。
そして、その表情を見るにつけ、なんだか悪いことをしてしまったように思うアダナ。
でも・・・まぁ、その辺のところはあまり深く考えない・・・というか、大雑把な性格のこの人の事、なので(うやむやのうちに・・・)
とるものもとりあえず、この家の書斎へ・・・・(ほんと、うやむやのうちに・・・))
ア:おっじゃまっしまぁ〜〜〜っす・・・。
はぁ〜〜、ここがこの家の書斎かね?!たぁっくさんあるねぇ〜〜。(まっ、ギルドのそれ・・・には負けるっけどもな)
どれどれ?フぅ〜〜〜ン・・・・、いろんなのがあるねぇ・・・・・。
うん??なんだ?これ・・・・(パッ!パッ!) ・・・・・・・『六韜八略』・・・・・・・・。(パラ) こ・・・っ!これは!!
(アダナ、この書斎に数ある書の中でも、とりわけ目を引いた一冊を手にし、早速目を通したのです。
すると・・・・それは何と、戦術・戦略の何たるかを取りまとめた “軍略書” だったのです。
そこへ、主の呂孟が現れ、その本をまるで隠すかのようにしまいこむアダナ・・・。)
孟:どうかね、アダナさん。 お目当てのものは見つかりましたかね?
ア:あ・・・ッ、いや、何しろたくさんありすぎるんでね・・・目移りしてたとこなんだよ・・・。(アセ・・)
孟:はっはっはは!ここにはいろんな蔵書がありますからな!目移りするのも無理はなかろう。
ま、ゆっくりとしていきなされ。
ア:・・・・・なぁ、ソロン?
ソ:『なんだね?』
ア:お前・・・あの男、どう思う?
ソ:『何を・・・・だね?』
ア:しらばっくれんなよ、薄々は勘付いてるんだろ? あのオヤジ、た〜だの町人なんかじゃあなさそうだぜ・・・。
ソ:『フフッ・・・バカは、バカなりに考えたようだな。』
ア:な・・・っ!なんだよ!それ・・・って。
ソ:『・・・・確かに、今の軍略書にしろ、言葉遣い、立ち居振る舞い、そのどれをとっても、一介の町人には程遠い。』
ア:じっ・・・・じゃあやはり??!
ソ:『まぁ待て、そう結論を急ぐ事ではなかろう。 じっくりと・・・腰を据えて待ってみろ、やがて向こうから話してくる機会もあろうて・・・。』
ア:(ふんむ・・・・)それもそうだな。 これはこれとして・・・他にも見てみるか・・・。
(自分を、一介の町人だという 呂孟子明 という男。 そしてその家にある、まるで不釣合いな“軍略書”。
そして、そのギャップに疑問を抱き始めるアダナ。
しかし・・・この疑問は、とどまるどころか、より一層膨らんでいったのです。)